本書は、北川が戦前にメキシコで原住民の子供たち相手に絵の指導を行った記録である。北川は、既存の絵画の価値観を子どもたちに押し付けず、子どもたちの自由で創造的な創作を後押しした。権威を振り掲げず子どもたちの情熱を発揮させる北川だが、弟子たちの児童画は、大いに好評を博した。メキシコの児童画は陰鬱であり、幸福でも自由の喜びでもないが、たいへん美しい。
メキシコの子供たちは抑圧されていた。だが、北川はそんな子供たちにとにかく自由な精神で絵を描くことを教えた。結果として、個性にあふれた優れた児童画が多数生まれた。それは確かに従来の美術教育とは異色のものかもしれないが、北川は先駆的に児童の美術教育に興味深い提言を行っているものと思われる。それは児童に限らず、美術教育全般にかかわる重要な提言だ。
