社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

法と学説

 取消訴訟を提起する際に主張する違法性として、信義則などの法の一般原則違反を主張することがある。違法と判断するためには、問題となっている処分が何らかの法に違反していなければならないが、ここで言う「法」とは法律に限らず広い意味での法である。

 ところで、例えば原告が、ある処分が信義側に違反すると主張するとき、その主張の根拠として一定の要件をすべて具備することを主張するかもしれない。しかし、信義則違反には法定された要件があるわけではなく、判例が要件を考え出したに過ぎないのである。判例の挙げる信義則違反の基準としては、公的見解の表明を私人が信頼しそれに基づき行動したところ行政庁が先の公的見解に反する言動をしそれによって私人が損害をこうむったことが挙げられている。原告としては、判例の考え出した要件に当該事例が当てはまっていることを主張することになるのであろうが、これは、法定要件に当該事例が当てはまっていると主張することとは明らかに異なっている。

 法律は国民の意思を反映して作られるものであり、その意味で通用力を有する。だが、判例は、民主制によって選ばれたわけでもない裁判官が勝手に作り出すものに過ぎず、国民の意思を反映していないから国民はそれに束縛される根拠は原則としてない。だから、法定要件に該当するから法的効果が生ずるという場合と、判例・学説が挙げる要件に該当するから法を介して法的効果が生じるという場合では、明らかに異なる。

 法律などの裁判規範となっている法源を適用する場合と、判例・学説などの裁判規範となっていない事実上の法源を適用する場合では、その通用力が全然違う。答案を書く場合もそれが反映され、法律の要件に該当する場合はその法律の趣旨を必ずしも書く必要がないが、判例・学説の基準を持ち出す場合には、民主制の根拠の欠如を生めるために、その判例・学説の理論的根拠を書かなければならないのである。