社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

社会哲学

井奥陽子『近代美学入門』(ちくま新書)

近代美学入門 (ちくま新書) 作者:井奥陽子 筑摩書房 Amazon 現代の美意識や美の概念の成立の経緯をたどる目から鱗が落ちる本。「アート」という言葉は古代から中世まで「技術」を意味していて、それが「芸術」を意味するようになるのは近代のことである。近…

波戸岡景太『スーザン・ソンタグ』(集英社新書)

スーザン・ソンタグ 「脆さ」にあらがう思想 (集英社新書) 作者:波戸岡景太 集英社 Amazon アメリカを代表する知識人として、その言説や行動が絶えず話題の的となっていたスーザン・ソンタグの入門書。ソンタグは、「反解釈」の立場をとり、既存の解釈にあら…

渡名喜庸哲『現代フランス哲学』(ちくま新書)

現代フランス哲学 (ちくま新書) 作者:渡名喜庸哲 筑摩書房 Amazon 哲学史として哲学の教科書に載っている哲学者以降の現代フランス哲学について概説している本。フーコー、ドゥルーズ、デリダというと誰でも知っていると思うが、そういったビッグネーム以降…

三木那由他『会話を哲学する』(光文社新書)

会話を哲学する~コミュニケーションとマニピュレーション~ (光文社新書) 作者:三木 那由他 光文社 Amazon 言語哲学の観点から会話を分析している。会話という行為は、コミュニケーションとマニピュレーションを含む営みである。コミュニケーションとは発言…

村上靖彦『客観性の落とし穴』(ちくまプリマー新書)

客観性の落とし穴 (ちくまプリマー新書) 作者:村上靖彦 筑摩書房 Amazon 客観性を追い求めることで却って不可視化されるものに焦点を当てよ、という本。科学は、自然を数値化し、社会を数値化し、心を数値化した。それによりすべてが「モノ」化し、人々は数…

桑瀬章二郎『ジャン=ジャック・ルソー』(講談社現代新書)

今を生きる思想 ジャン=ジャック・ルソー 「いま、ここ」を問いなおす (講談社現代新書) 作者:桑瀬 章二郎,ジャン=ジャック・ルソー 講談社 Amazon 常識を問い直す人としてのルソーの紹介。ルソーの思想は複数の知の領域にまたがっており、「政治」「自由」…

鈴木大拙『東洋的な見方』(岩波文庫)

新編 東洋的な見方 (岩波文庫) 作者:鈴木 大拙 岩波書店 Amazon 鈴木大拙が晩年に執筆したエッセイ。西洋は主体と客体に二元化し、一般化・概念化・抽象化する。東洋は分割的知性を持たず、主客未分化であり、「光あれ」という刹那に触れようとする。また、…

上野正道『ジョン・デューイ』(岩波新書)

ジョン・デューイ 民主主義と教育の哲学 (岩波新書) 作者:上野 正道 岩波書店 Amazon プラグマティストで進歩主義思想家であるジョン・デューイの入門書。デューイは主体・客体などといった二元論を克服し、相互の信頼・正義に向けて多様な市民の権利と自由…

牧野雅彦『ハンナ・アレント』(講談社現代新書)

今を生きる思想 ハンナ・アレント 全体主義という悪夢 (講談社現代新書) 作者:牧野 雅彦,ハンナ・アレント 講談社 Amazon 全体主義に対する思想的な抵抗の理論を唱えたハンナ・アレントの入門書。人間は行為によって無数の関係の網の目を作り出し、それが「…

辻仁成『パリの空の下で、息子とぼくの3000日』(マガジンハウス)

パリの空の下で、息子とぼくの3000日 作者:辻仁成 マガジンハウス Amazon 作家の辻仁成が、思春期の息子と暮らしたパリでの生活をつづったエッセイである。本書のキーワードは「じーん」と「かっちーん」である。息子の成長ぶりや何気ない一言に感動する一方…

東畑開人『聞く技術 聞いてもらう技術』(ちくま新書)

聞く技術 聞いてもらう技術 (ちくま新書) 作者:東畑開人 筑摩書房 Amazon 心理療法士の観点からの現代社会への処方箋。現代では、「聞くの不全」が起こっている。社会全体が余裕を失っており、困窮している人たちが声を上げているが一向にそれがきちんと聞か…

梅田孝太『ショーペンハウアー』(講談社現代新書)

今を生きる思想 ショーペンハウアー 欲望にまみれた世界を生き抜く (講談社現代新書100) 作者:梅田孝太,アルトゥール・ショーペンハウアー 講談社 Amazon ショーペンハウアーのコンパクトな入門書。世界には二つの側面がある。表象としての世界と意志とし…

千葉雅也『現代思想入門』(講談社現代新書)

現代思想入門 (講談社現代新書) 作者:千葉雅也 講談社 Amazon 著者なりに解釈した現代思想を人生に接続しようとする本。デリダは「概念の脱構築」を行った。健康/病気など片方が優位にあるような対立を、劣位の方に味方するようなロジックを用いて、対立す…

中真生『生殖する人間の哲学』(勁草書房)

生殖する人間の哲学: 「母性」と血縁を問い直す 作者:中 真生 勁草書房 Amazon 本書はレヴィナスに依拠しながら、人間は根底的に誰でも親になりうることを論述している。一般的には、生むことがそのまま親であることにつながると考えられがちである。基本的…

村上靖彦『ケアとは何か』(中公新書)

ケアとは何か-看護・福祉で大事なこと (中公新書, 2646) 作者:村上 靖彦 中央公論新社 Amazon ケアについて現象学的観点から語っている。ケアとは、一人で存在することができない仲間を助ける行為であり、弱さを他の人が支える行為である。ケアには二種類あ…

マイケル・ローゼン『尊厳』(岩波新書)

尊厳: その歴史と意味 (岩波新書 新赤版 1870) 作者:マイケル・ローゼン 発売日: 2021/03/22 メディア: 新書 尊厳とは何かについてカントにさかのぼって考察している重要な本。 国家が個人の自由を制限するとき、他者の尊厳を敬うことで威厳ある行動をする義…

上村忠男『アガンベン《ホモ・サケル》の思想』(講談社選書メチエ)

アガンベン 《ホモ・サケル》の思想 (講談社選書メチエ) 作者:上村忠男 発売日: 2020/03/11 メディア: Kindle版 本書は、イタリアの哲学者であるアガンベンの思想を紹介している。フーコーの「生政治」の思想を継承したうえで、それを「ホモ・サケル」という…

大谷崇『生まれてきたことが苦しいあなたに』(星海社新書)

生まれてきたことが苦しいあなたに 最強のペシミスト・シオランの思想 (星海社新書) 作者:大谷 崇 発売日: 2019/12/27 メディア: 新書 ルーマニアのペシミストであるシオランを紹介した本である。シオランは怠惰を奨励した。なぜなら怠惰であれば行為も存在…

木澤佐登志『ニック・ランドと新反動主義』(星海社新書)

ニック・ランドと新反動主義 現代世界を覆う〈ダーク〉な思想 (星海社新書) 作者:木澤 佐登志 発売日: 2019/05/26 メディア: 新書 人間たちは、互いに共存共栄し合い、人間という種族の繁栄を期するために日々生活し様々な政治活動を行う。たぶんこれは多く…

藤田・宮野『愛』(ナカニシヤ出版)

愛 (愛・性・家族の哲学 第1巻) 作者: 藤田尚志,宮野真生子 出版社/メーカー: ナカニシヤ出版 発売日: 2016/04/15 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 愛の思想史をなす論文集。 ①プラトンの哲学をベースに、古代ギリシアの最終的にはイデアへとの…

斎藤元紀編『現代日本の四つの危機』(講談社選書メチエ)

連続講義 現代日本の四つの危機 哲学からの挑戦 (講談社選書メチエ) 作者: 齋藤元紀 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2015/08/11 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログ (1件) を見る 現代日本の危機を哲学的観点から論じたオムニバス形式…

藤野寛『「承認」の哲学』(青土社)

「承認」の哲学――他者に認められるとはどういうことか―― 作者: 藤野寛 出版社/メーカー: 青土社 発売日: 2016/06/24 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (2件) を見る アクセル・ホネットの承認論の解説といったところ。 自己の欲求の実現をはかるとき、…

栗原康『アナキズム』(岩波新書)

アナキズム――一丸となってバラバラに生きろ (岩波新書) 作者: 栗原康 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2018/11/20 メディア: 新書 この商品を含むブログ (1件) を見る あらゆる支配から免れ、生の拡充を目指すアナキズムの思想を紹介。 ①エコ・アナキズム…

熊谷晋一郎『痛みの哲学』(青土社)

ひとりで苦しまないための「痛みの哲学」 作者: 熊谷晋一郎,大澤真幸,上野千鶴子,鷲田清一,信田さよ子 出版社/メーカー: 青土社 発売日: 2013/10/24 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログ (4件) を見る 痛みについて脳性麻痺を持つ著者が…

家永三郎『数奇なる思想家の生涯』(岩波新書)

数奇なる思想家の生涯―田岡嶺雲の人と思想 (1955年) (岩波新書) 作者: 家永三郎 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 1955 メディア: 新書 購入: 1人 この商品を含むブログを見る 明治の時代に先鋭的な思想を掲げながら、その筆鉾の鋭さゆえ著作が発禁となり…

家永三郎『革命思想の先駆者』(岩波新書)

革命思想の先駆者―植木枝盛の人と思想 (岩波新書 青版 224) 作者: 家永三郎 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 1955/12/16 メディア: 新書 クリック: 5回 この商品を含むブログ (1件) を見る 自由民権運動の立役者である植木枝盛の人と思想を紹介した本。 …

山脇直司『公共哲学からの応答』(筑摩選書)

公共哲学からの応答―3・11の衝撃の後で (筑摩選書) 作者: 山脇直司 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2011/12/01 メディア: 単行本 クリック: 12回 この商品を含むブログ (4件) を見る 3・11に対して公共哲学の立場から議論を投げかけたもの。 人々の支…

合田正人『入門 ユダヤ思想』(ちくま新書)

入門ユダヤ思想 (ちくま新書) 作者: 合田正人 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2017/08/03 メディア: 新書 この商品を含むブログ (3件) を見る 様々な哲学者によるユダヤに関する思想を入門的に集めたもの。 ユダヤにとって無限と向き合うことは重要であ…

真下信一『思想の現代的条件』(岩波新書)

思想の現代的条件 一哲学者の体験と省察(1972年) (岩波新書) 作者: 真下信一 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 1972/07/02 メディア: 新書 クリック: 1回 この商品を含むブログ (1件) を見る 唯物論哲学者による、戦後の時代への哲学的処方箋。 ①「思想者…

マルクス・ガブリエル『なぜ世界は存在しないのか』(講談社選書メチエ)

なぜ世界は存在しないのか (講談社選書メチエ) 作者: マルクス・ガブリエル,清水一浩 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2018/01/13 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログ (5件) を見る ポストモダン以降の潮流である新しい実在論の代表的…