社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

文化

井奥陽子『近代美学入門』(ちくま新書)

近代美学入門 (ちくま新書) 作者:井奥陽子 筑摩書房 Amazon 現代の美意識や美の概念の成立の経緯をたどる目から鱗が落ちる本。「アート」という言葉は古代から中世まで「技術」を意味していて、それが「芸術」を意味するようになるのは近代のことである。近…

稲田豊史『映画を早送りで観る人たち』(光文社新書)

映画を早送りで観る人たち~ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形~ (光文社新書) 作者:稲田 豊史 光文社 Amazon 映画を早送りで観る人たちが増えている。そのようなコンテンツ消費の深層に迫る本。映画には間にも意味があり、作成された時間のま…

矢野・佐々木『絵本のなかの動物はなぜ一列に歩いているのか』(勁草書房)

絵本のなかの動物はなぜ一列に歩いているのか: 空間の絵本学 作者:矢野 智司,佐々木 美砂 勁草書房 Amazon 絵本に対する画期的な洞察を示す良書。空間構成のプロセスから考えたとき、絵本は、絵や文によって関係が集積して積み重なり、そのはてにその関係の…

源河亨『愛とラブソングの哲学』(光文社新書)

愛とラブソングの哲学 (光文社新書 1277) 作者:源河 亨 光文社 Amazon 愛とラブソングについて哲学的な分析を加えていく本。愛は感情の枠に収まるものではなく、対象となる人に関する思考・欲求・行動・感情を生み出す潜在的な基盤である。そして愛は代替不…

宇佐見英治『石の夢』(筑摩書房)

石の夢 (宇佐見英治自選随筆集) 作者:宇佐見 英治 筑摩書房 Amazon 宇佐見英治の詩人としての面目躍如たるエッセイ集である。石に対するみずみずしい感性、「石を食べたい」と感じるような飛躍した感性、そこに宇佐見が全き「外部」と接触しまさに「創造」を…

郡司ペギオ幸夫『創造性はどこからやってくるか』(ちくま新書)

創造性はどこからやってくるか ――天然表現の世界 (ちくま新書) 作者:郡司ペギオ幸夫 筑摩書房 Amazon 独特な芸術創作論。一人一人が状況の中にあえて二項対立的なものを見出し、肯定的・否定的矛盾の共立を構想するとき、そこには外部が召喚され、全き外部と…

宇佐見英治『明るさの神秘』(みすず書房)

明るさの神秘 作者:宇佐見 英治 みすず書房 Amazon 主に宮沢賢治について書かれた批評的エッセイ集。宮沢賢治のいう心象スケッチは、時間の中で書かれたものではなく、時間そのものの相貌であり、この呼吸を言い表すために四次元世界・四次元芸術という言葉…

宇佐美・志村『一茎有情』(ちくま文庫)

一茎有情―対談と往復書簡 (ちくま文庫) 作者:英治, 宇佐見,ふくみ, 志村 筑摩書房 Amazon 詩人の宇佐見英治と染織家の志村ふくみの対談集である。詩人である宇佐美がその卓抜なる感性でもって志村の言葉を引き出していき、志村の染織家としての実践と、その…

鈴木志郎康『結局、極私的ラディカリズムなんだ』(書肆山田)

結局、極私的ラディカリズムなんだ―鈴木志郎康表現論エッセイ集 (Le livre de luciole) 作者:鈴木志郎康 書肆山田 Amazon 主に個人映画について紹介しているエッセイ集。「個人映画」とは、映画会社などの資本により制作されるのではなく、個人があたかも詩…

岡本勝人『「生きよ」という声』(左右社)

「生きよ」という声 鮎川信夫のモダニズム 作者:岡本 勝人 左右社 Amazon 戦後詩壇で重要な位置にいた詩人・評論家の鮎川信夫に関する全般的な入門書。鮎川の複雑な詩は、矛盾を総合し重層的に決定するという反語的な要素を隠し持っている。そして、個人の幻…

小田久郎『戦後詩壇私史』(新潮社)

戦後詩壇私史 作者:小田 久郎 新潮社 Amazon 戦後間もないころの詩人と詩の出版社の状況を活写する活気に満ちた本。詩というとマーケットが狭く、それほど広く人口に膾炙していないのが実態である。そうでありながら、様々な詩人が様々な媒体で活躍している…

レジー『ファスト教養』(集英社新書)

ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち (集英社新書) 作者:レジー 集英社 Amazon ビジネスにすぐ役立つ教養としての「ファスト教養」が流行している。その現象を分析し、その背後に何があるか探っている本。中田敦彦の「YouTube大学」に代表されるように、…

吉見俊哉『東京復興ならず』(中公新書)

東京復興ならず-文化首都構想の挫折と戦後日本 (中公新書 2649) 作者:吉見 俊哉 中央公論新社 Amazon 戦後の東京の歩みを文化都市構想の挫折というテーマで描いた本。終戦直後の日本では、日本を文化の力で復興しようという動きがあった。東京への一極集中で…

ラリー遠田『お笑い世代論』(光文社新書)

お笑い世代論~ドリフから霜降り明星まで~ (光文社新書) 作者:ラリー 遠田 発売日: 2021/04/13 メディア: Kindle版 お笑いの戦後史を簡潔に述べている。 ・お笑い第一世代:ザ・ドリフターズ、萩本欽一 テレビという新しいメディアに合わせた新規性のある「…

斎藤・與那覇『心を病んだらいけないの?』(新潮新書)

心を病んだらいけないの?―うつ病社会の処方箋―(新潮選書) 作者:斎藤環,與那覇潤 発売日: 2020/05/27 メディア: Kindle版 精神科医の斎藤環と元歴史学者の與那覇潤による対談形式の現代文明批評。我々が生きている現代日本というものがどういう空気に包ま…

川端康雄『ジョージ・オーウェル』(岩波新書)

ジョージ・オーウェル――「人間らしさ」への讃歌 (岩波新書) 作者:川端 康雄 発売日: 2020/07/18 メディア: 新書 『動物農場』や『一九八四年』で、個人の自由の制限や監視社会化に警鐘を鳴らすようなディストピア小説を書いたジョージ・オーウェルの生涯と作…

野矢茂樹『そっとページをめくる』(岩波書店)

そっとページをめくる――読むことと考えること 作者: 野矢茂樹 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2019/07/26 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログを見る 本書において野矢はまことに簡潔明瞭な書評をしている。書評にはその人の文体が如…

鈴木透『性と暴力のアメリカ』(中公新書)

性と暴力のアメリカ―理念先行国家の矛盾と苦悶 (中公新書) 作者: 鈴木透 出版社/メーカー: 中央公論新社 発売日: 2006/09 メディア: 新書 クリック: 19回 この商品を含むブログ (52件) を見る アメリカは植民地として作られたため、人々はそこでお互いのかか…

鈴木透『食の実験場 アメリカ』(中公新書)

食の実験場アメリカ-ファーストフード帝国のゆくえ (中公新書) 作者: 鈴木透 出版社/メーカー: 中央公論新社 発売日: 2019/04/19 メディア: 新書 この商品を含むブログを見る 食の観点から見たアメリカ文化史。 アメリカでは、先住民の食文化と入植民の食文…

残間里江子『閉じる幸せ』(岩波新書)

閉じる幸せ (岩波新書) 作者: 残間里江子 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2014/10/22 メディア: 新書 この商品を含むブログ (1件) を見る 編集者などいくつかのキャリアを駆け抜けたキャリアウーマンの生き方エッセイ。著者は山口百恵の自伝を手掛けたり…

大澤聡『教養主義のリハビリテーション』(筑摩選書)

教養主義のリハビリテーション (筑摩選書) 作者: 大澤聡 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2018/05/15 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログ (4件) を見る 教養主義のじっくりとしたリハビリを行い、新たな教養論を期した本。 教養のた…

藤田正勝『日本文化をよむ』(岩波新書)

日本文化をよむ 5つのキーワード (岩波新書) 作者: 藤田正勝 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2017/08/23 メディア: 新書 この商品を含むブログを見る 「無常」をテーマとして日本文化を論じた本。 出家の道と詩歌の道との相克で悩んだ西行。人間の悪を直…

小椋力『写真健康論』(日本評論社)

写真健康論 作者: 小椋力 出版社/メーカー: 日本評論社 発売日: 2018/07/23 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 写真が健康に結びつくことを論じた先駆的な本。 体の健康のためには食生活と運動に気を配る必要がある。心の健康のためには発症危険…

鳥原学『日本写真史(上)』(中公新書)

日本写真史 上 - 幕末維新から高度成長期まで (中公新書) 作者: 鳥原学 出版社/メーカー: 中央公論新社 発売日: 2013/12/19 メディア: 新書 この商品を含むブログ (8件) を見る 日本写真史についての教科書的な本。1848年から1974年まで。 英仏で写…

四方田犬彦『「かわいい」論』(ちくま新書)

「かわいい」論 (ちくま新書) 作者: 四方田犬彦 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2006/01/01 メディア: 新書 購入: 5人 クリック: 156回 この商品を含むブログ (136件) を見る 世界を席巻する「かわいい」日本文化。その現象と本質に迫ろうとする著作。 …

吉見俊哉『大学とは何か』(岩波新書)

大学とは何か (岩波新書) 作者: 吉見俊哉 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2011/07/21 メディア: 新書 購入: 3人 クリック: 142回 この商品を含むブログ (15件) を見る 大学とは何か、という問いに対して、大学の文化史でもって答えを与えようとする本。 …

菅香子『共同体のかたち』(講談社選書メチエ)

共同体のかたち イメージと人々の存在をめぐって (講談社選書メチエ) 作者: 菅香子 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2017/02/11 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログを見る 芸術作品のイメージは従来政治的なものとして機能してきた。皇…

吉見俊哉『夢の原子力』(ちくま新書)

夢の原子力―Atoms for Dream (ちくま新書) 作者: 吉見俊哉 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2012/08/01 メディア: 新書 クリック: 12回 この商品を含むブログ (11件) を見る 戦後日本が核をどのように受容していったかについての文化史。 原爆は確かに世…

加藤周一『抵抗の文学』(岩波新書)

抵抗の文学 (岩波新書 青版 58) 作者: 加藤周一 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 1951/01 メディア: 新書 この商品を含むブログを見る 戦時のレジスタンス文学がそれまでのフランス文学に新たな境地を生み出したとする評論。加藤周一の初期の代表作。 第…

海老坂武『加藤周一』(岩波新書)

加藤周一?二十世紀を問う (岩波新書) 作者: 海老坂武 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2015/01/22 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る 加藤周一は戦後を代表する評論家であり、合理的な観察者であった。彼の功績としては主に、雑種文化論、『…