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稲田豊史『映画を早送りで観る人たち』(光文社新書)

 映画を早送りで観る人たちが増えている。そのようなコンテンツ消費の深層に迫る本。映画には間にも意味があり、作成された時間のまま観ることでその真価に触れることができる、そう考えている人は映画監督にも鑑賞者にも多い。だが、最近は自分の見たいところだけ等速で観て、あとは倍速で流し観する人が増えている。その背景には、SNSで常に友人たちとつながっていて話題についていくことに必死な現代の若者像や、タイパ重視の若者の価値観、快適なもののみを求める最近の傾向など現代日本の様々な傾向性が反映されている。

 本書は、映画を早送りで観る人たちに着目しながら、その背後にある現代日本の傾向性について論じている。確かに私も古い考えの持ち主で、映画は等速で観るべきだと思っている。そうでないと作品を十全に鑑賞したとは言えないと思っている。だが、映画を鑑賞するのではなく消費するのだとすると、早送りもありうるのかとも思う。私は映画を消費していないだけであって、映画を消費する人たちにとっては早送りは当たり前かもしれない。興味深い論考だ。