社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

2021-01-01から1年間の記事一覧

小島庸平『サラ金の歴史』(中公新書)

サラ金の歴史 消費者金融と日本社会 (中公新書) 作者:小島庸平 中央公論新社 Amazon サラ金が日本において貧者のセーフティネットにまで進化してきた軌跡を追う。現代のサラ金の源流は、個人間金融で金融技術を鍛え上げた素人高利貸である。そこから団地金融…

ワーク・ライフの相関性

近年の若者はワーク・ライフバランス重視である。仕事も大事だがそれ以上にプライベートの時間を大事にする。また、仕事をしていても、よく「オン・オフの切り替え」とか「仕事は仕事、家庭は家庭」といったことを言われたりする。これらの考え方はすべて仕…

ジョオン・サースク『消費社会の誕生』(ちくま学芸文庫)

消費社会の誕生 ――近世イギリスの新規プロジェクト (ちくま学芸文庫) 作者:ジョオン・サースク 筑摩書房 Amazon 16~17世紀イギリスでのイノベーションについて記述している本。近世イギリスにおいては、既存の物の組み合わせによる新たな事業が発達し、…

イクメンになって直面したこと

男性の育休取得がだいぶ普及してきた。私もこの夏に育児休暇を1カ月取得し、その後も仕事をしながら育児に携わっている。だが、この「イクメン」を取り巻く状況は決してやさしいものではない。一つには、これまで世のママたちが背負ってきた苦労を共に背負…

キア・ミルバーン『ジェネレーション・レフト』(堀之内出版)

ジェネレーション・レフト (Zブックス) 作者:キア・ミルバーン 堀之内出版 Amazon 世界の若者たちの左傾化現象について述べた本。若者たちは上の世代との世代間格差に気付いている。若者たちはもはや上の世代のような潤沢な生活を送れないし、気候変動などの…

中真生『生殖する人間の哲学』(勁草書房)

生殖する人間の哲学: 「母性」と血縁を問い直す 作者:中 真生 勁草書房 Amazon 本書はレヴィナスに依拠しながら、人間は根底的に誰でも親になりうることを論述している。一般的には、生むことがそのまま親であることにつながると考えられがちである。基本的…

小松理虔『地方を生きる』(ちくまプリマー新書)

地方を生きる (ちくまプリマー新書) 作者:小松理虔 筑摩書房 Amazon ローカルアクティビストとして活躍する著者の実体験に基づく地方暮らしのエッセイ。地方では自分の生き方の可能性が広がる。競争相手が少なくコストがかからないから、失敗しても再チャレ…

理論を実践することは可能か

先日恩師と話す機会があり、その中で「お前ももう40になるんだから理論を実践することを考えろ」という話題が上がった。だが、理論を実践することはそれほど簡単だろうか。それは理論を実践する場によって異なると思われる。 例えば健康法の理論があり、そ…

鴻上・佐藤『同調圧力』(講談社現代新書)

同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか (講談社現代新書) 作者:鴻上尚史,佐藤直樹 講談社 Amazon 日本社会の息苦しさを生み出している同調圧力について分析した本。同調圧力とは「みんなと同じに」という命令であり、日本は世界でも同調圧力が突出して高い国…

吉見俊哉『東京復興ならず』(中公新書)

東京復興ならず-文化首都構想の挫折と戦後日本 (中公新書 2649) 作者:吉見 俊哉 中央公論新社 Amazon 戦後の東京の歩みを文化都市構想の挫折というテーマで描いた本。終戦直後の日本では、日本を文化の力で復興しようという動きがあった。東京への一極集中で…

育児休業を取ってみて感じたこと

妻の出産に伴い、生後百日は大変だろうということで、生後70日は里帰り先の妻の実家の義両親にサポートしてもらい、里帰りから戻ってきてその後の30日を、私が育児休業をとってサポートした。実際に育児に専念してみて色々感じたことがある。 1.ものの…

辻村みよ子『ポジティヴ・アクション』(岩波新書)

ポジティヴ・アクション――「法による平等」の技法 (岩波新書) 作者:辻村 みよ子 岩波書店 Amazon ポジティヴ・アクションとは、人種や性別などに由来する事実上の格差がある場合、それを解消して実質的な平等を実現するための積極的改善措置のことである。人…

ジグムント・バウマン『近代とホロコースト』(ちくま学芸文庫)

近代とホロコースト〔完全版〕 (ちくま学芸文庫) 作者:ジグムント・バウマン 筑摩書房 Amazon 近代がホロコーストを生み出すとするバウマンの主著。ホロコーストは文明の代表するものの集大成であり、愛すべき近代社会の別の顔である。ホロコーストは、思想…

石井遼介『心理的安全性のつくりかた』(日本能率協会マネジメントセンター)

心理的安全性のつくりかた 「心理的柔軟性」が困難を乗り越えるチームに変える 作者:石井遼介 日本能率協会マネジメントセンター Amazon 心理的安全性の高いチームを作るためのやり方。心理的安全なチームとは、メンバー同士が健全に意見を戦わせ、生産的で…

経験は教養である

教養を身に着けることとは読書や学問によって人格形成することだと一般にはとらえられている。だが、読書や学問だけでなく人生経験もまた教養を養うものだと私は考えている。 読書や学問で身に着けられるものは、知識であり、ものの見方や思考様式であり、世…

松井茂記『性犯罪者から子どもを守る』(中公新書)

性犯罪者から子どもを守る―メーガン法の可能性 (中公新書) 作者:松井 茂記 中央公論新社 Amazon 性犯罪者の登録・公表制度であるメーガン法の合憲性について論述。児童への性犯罪は児童の心身を著しく傷つける残忍な犯罪であるため、再犯を防止するため、前…

小林正弥『ポジティブ心理学』(講談社選書メチエ)

ポジティブ心理学 科学的メンタル・ウェルネス入門 (講談社選書メチエ) 作者:小林 正弥 講談社 Amazon 今の世の中、精神論は軽視される傾向があります。特に若者の世代は精神論をほとんど信じていません。それは精神論が合理的でなく科学的根拠に乏しいのが…

斎藤幸平『人新世の「資本論」』(集英社新書)

人新世の「資本論」 (集英社新書) 作者:斎藤幸平 集英社 Amazon 気候変動の時代に人類が生き残るために資本主義では限界があることを主張。資本主義というのは犠牲のシステムであり、たえず外部に不経済を発生させることで成長する。外部とはグローバルサウ…

ケアというプロジェクト

妻の妊娠がわかってから1年がたつ。次々とやってくる新しい出来事を駆け抜けた一年だった。経験したことのない課題を一つ一つクリアしていくなんともスリリングな一年だった。これはひとつのケアというプロジェクトなのだと思う。 妊娠している妻は体調がそ…

涌井美和子『職場のいじめとパワハラ防止のヒント』(経営書院)

改訂3版職場のいじめとパワハラ防止のヒント 作者:涌井美和子 産労総合研究所出版部経営書院 Amazon パワハラ対策の総合的な実践書。昨今のパワハラ防止法制の解説に始まり、そもそもどういう行為がパワハラになるか、パワハラの定義を解説。パワハラを生み…

村上靖彦『ケアとは何か』(中公新書)

ケアとは何か-看護・福祉で大事なこと (中公新書, 2646) 作者:村上 靖彦 中央公論新社 Amazon ケアについて現象学的観点から語っている。ケアとは、一人で存在することができない仲間を助ける行為であり、弱さを他の人が支える行為である。ケアには二種類あ…

枝廣淳子『好循環のまちづくり!』

好循環のまちづくり! (岩波新書 新赤版 1877) 作者:枝廣 淳子 岩波書店 Amazon 著者の前著『地元経済を創りなおす』を受けた実践編。まちづくりには三段階がある。ホップとしては、バックキャスティングで未来の望ましい街の姿を描くこと。現状に基づいて何…

岡田一郎『革新自治体』(中公新書)

革新自治体 熱狂と挫折に何を学ぶか (中公新書) 作者:岡田一郎 中央公論新社 Amazon 革新自治体についてよくまとまった入門書。1960年代から70年代に、左派の首長が全国各地で誕生した。特に、高度経済成長に伴うひずみである、公害の発生や社会資本の…

魔のポスト

あなたの組織にも存在しないだろうか、「魔のポスト」が。そのポストには質的に高度で量的にも大量な仕事が要求され、そのポストに就いた人はたいてい心身の健康を害するかその前に辞めていくかいずれかである、そういうポストがないだろうか。 私はそういう…

木下武男『労働組合とは何か』(岩波新書)

労働組合とは何か (岩波新書 新赤版 1872) 作者:木下 武男 岩波書店 Amazon 労働組合の歴史と労働組合への分析について手堅くまとめた良書。労働組合発祥の地ヨーロッパでは、中世的な親方制の労働組合から産業別労働組合と変遷し、労働組合は企業に対抗する…

東野純彦『知っておくべき産後の妻のこと』(幻冬舎)

知っておくべき産後の妻のこと 作者:東野 純彦 幻冬舎 Amazon 妻が出産したため手に取った。産後の妻のうち約7割が夫を愛していないという調査結果が出ている。このように産後の夫婦仲が急激に悪化することを「産後クライシス」という。出産により女性はエ…

橋本卓典『未来の金融』(講談社現代新書)

捨てられる銀行3 未来の金融 「計測できない世界」を読む (講談社現代新書) 作者:橋本 卓典 講談社 Amazon 著者はこの「捨てられる銀行」シリーズの第一巻で、金融庁が地銀に対して、形式的な尺度で融資を決めるのではなくその企業の将来性や地域密着性など…

北野弘久『納税者の権利』(岩波新書)

納税者の権利 (岩波新書) 作者:北野 弘久 岩波書店 Amazon 1981年刊行であるが今でもなお訴求力のある税制改善論。 北野はまず、納税者の権利として、財産に不当な負担を課されず課税には民主的コントロールを及ぼすという租税民主主義ではたりず、税金…

職場の構造

属人的思考から構造的思考へ――問題の真の解決のためにはこのような思考様式の転換が必要です。理由としては、一つには人を変えるのは難しいけれど構造を変えるのは比較的容易であること、そして問題の原因をさかのぼるとその人自身の問題ではなく場の構造の…

運も実力のうち

「運も実力のうち」というと、予期せぬ幸運が降ってきて戸惑っている人に、周りの人が冗談半分にかける言葉、というイメージがある。だが、「運も実力のうち」というのは意味が形骸化したイディオムではなく、事実を指示している言葉のように思える。 「結婚…