社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

社会

石田光規『「人それぞれ」がさみしい』(ちくまプリマー新書)

「人それぞれ」がさみしい ――「やさしく・冷たい」人間関係を考える (ちくまプリマー新書) 作者:石田 光規 筑摩書房 Amazon 個人を尊重する「人それぞれ」の考え方の功罪について書いている本。現代において個性が尊重され多様性が受け入れられている結果、…

富岡多恵子『表現の風景』(講談社)

表現の風景 (講談社文芸文庫) 作者:富岡多惠子 講談社 Amazon 詩人である富岡多恵子のエッセイ集。話題は多岐にわたり、障碍者用のダッチワイフの話から私小説の話、女性の地位の話などさまざまである。単純な表現論に終わるのではなく、社会問題へのまなざ…

関口洋平『「イクメン」を疑え!』(集英社新書)

「イクメン」を疑え! (集英社新書) 作者:関口洋平 集英社 Amazon イクメンを称揚することの問題点について、アメリカ映画をもとに紐解いていく本。男性の育児参加が進むのは喜ばしいことだが、イクメンの表象はしばしば「男はつらいよ」「男性が被害者」と…

スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ『セカンドハンドの時代』(岩波書店)

セカンドハンドの時代――「赤い国」を生きた人びと 作者:スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ 岩波書店 Amazon ソ連崩壊の衝撃を市井の人々から語ってもらっているノンフィクション。資本主義の導入により、生活が豊かになると同時に自分でお金を稼がなければ…

佐藤光『よみがえる田園都市国家』(ちくま新書)

よみがえる田園都市国家 ──大平正芳、E・ハワード、柳田国男の構想 (ちくま新書) 作者:佐藤光 筑摩書房 Amazon 田園都市国家構想についての概説。岸田現内閣にも継承されている「デジタル田園都市国家構想」において、「全国どこでも誰もが便利で快適に暮ら…

スズキナオ『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンドブックス)

深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと 作者:スズキナオ スタンド・ブックス Amazon ニッチな飲食店のレポートや、生活の中の些細な営みについてのエッセイ。基本的に有用性を志向しておらず、基本的に無駄なことが多い。役に立つことはあまりしてい…

ニコラス=シェリル『絶望死』(朝日新聞出版)

絶望死 労働者階級の命を奪う「病」 作者:N・D・クリストフ+S・ウータ 朝日新聞出版 Amazon 現代アメリカの惨状を描く本。「絶望死」とは薬物・アルコール・自殺による死のことである。絶望死の原因としては地位や良い職を失ったり子どもへの希望が失わ…

宮島喬『「移民国家」としての日本』(岩波新書)

「移民国家」としての日本: 共生への展望 (岩波新書 新赤版 1947) 作者:宮島 喬 岩波書店 Amazon 2019年に出た望月優大『ふたつの日本』(講談社現代新書)においては、まだ日本には移民が増えているという認識だったと思うが、2022年の本書において…

秦正樹『陰謀論』(中公新書)

陰謀論 民主主義を揺るがすメカニズム (中公新書) 作者:秦正樹 中央公論新社 Amazon 陰謀論とは、「重要な出来事の裏では一般人には見えない力がうごめいている」とする信念である。陰謀論についてはそれがSNSで拡散されるとする「SNS悪玉論」があるが、デー…

ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー(新潮文庫) 作者:ブレイディみかこ 新潮社 Amazon イギリス在住の著者は、アイルランド人と結婚して混血の子どもを育てている。本書はイギリスの学校に通う息子との日常をつづったノンフィクションである。学校…

前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社新書)

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書) 作者:前野 ウルド 浩太郎 光文社 Amazon ノンフィクション・エンターテインメント。昆虫学で博士号を取った著者が、自らの研究生命を保つためにアフリカへ旅立ち現地で奮闘する物語。一見するとアフリカの冒険譚のよ…

津止正敏『男が介護する』(中公新書)

男が介護する-家族のケアの実態と支援の取り組み (中公新書, 2632) 作者:津止 正敏 中央公論新社 Amazon 男性介護者の実態について書かれた本。介護する男性を「ケアメン」などと呼んだりして珍しいものだと思われがちだが、実際は介護している人口の三分の…

樹村みのり『彼らの犯罪』(岩波現代文庫)

彼らの犯罪 (岩波現代文庫 文芸 341) 作者:樹村 みのり 岩波書店 Amazon 本書は漫画という形式をとりながらも社会的な事件や問題を日常的な視点から多角的に洞察している。「女子高生コンクリート詰め殺人事件」に材をとった表題作から、宗教による洗脳の問…

燃え殻『相談の森』(ネコノス)

相談の森 作者:燃え殻 ネコノス Amazon 流行作家である燃え殻が、仕事や恋愛など多種多様な人生相談に応えたもの。本書において著者は決して偉そうな態度をとらないし、物事を決めつけたりしない。それよりも、他人の人生へと想像力を働かせ、他人の言葉を傾…

小島庸平『サラ金の歴史』(中公新書)

サラ金の歴史 消費者金融と日本社会 (中公新書) 作者:小島庸平 中央公論新社 Amazon サラ金が日本において貧者のセーフティネットにまで進化してきた軌跡を追う。現代のサラ金の源流は、個人間金融で金融技術を鍛え上げた素人高利貸である。そこから団地金融…

小松理虔『地方を生きる』(ちくまプリマー新書)

地方を生きる (ちくまプリマー新書) 作者:小松理虔 筑摩書房 Amazon ローカルアクティビストとして活躍する著者の実体験に基づく地方暮らしのエッセイ。地方では自分の生き方の可能性が広がる。競争相手が少なくコストがかからないから、失敗しても再チャレ…

鴻上・佐藤『同調圧力』(講談社現代新書)

同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか (講談社現代新書) 作者:鴻上尚史,佐藤直樹 講談社 Amazon 日本社会の息苦しさを生み出している同調圧力について分析した本。同調圧力とは「みんなと同じに」という命令であり、日本は世界でも同調圧力が突出して高い国…

木下武男『労働組合とは何か』(岩波新書)

労働組合とは何か (岩波新書 新赤版 1872) 作者:木下 武男 岩波書店 Amazon 労働組合の歴史と労働組合への分析について手堅くまとめた良書。労働組合発祥の地ヨーロッパでは、中世的な親方制の労働組合から産業別労働組合と変遷し、労働組合は企業に対抗する…

原田曜平『Z世代』(光文社新書)

Z世代~若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?~ (光文社新書) 作者:原田 曜平 発売日: 2020/11/27 メディア: Kindle版 Z世代とはおおむね1990年代中ごろ以降に生まれた世代。 Z世代が注目されるのは、①平成の高齢化によって生まれた高齢者信奉が…

宮崎雅人『地域衰退』(岩波新書)

地域衰退 (岩波新書 新赤版 1864) 作者:宮崎 雅人 発売日: 2021/01/22 メディア: 新書 地域衰退の現状と理由、対策についてコンパクトにまとまっている本。 60~70年代にかけて、農林業など基盤産業が衰退した地域の中で産業の交代が起きなかった地域で…

タナハシ・コーツ『僕の大統領は黒人だった』下(慶應義塾大学出版会)

僕の大統領は黒人だった 下 :バラク・オバマとアメリカの8年 作者:タナハシ・コーツ,Ta-Nehisi Coates 発売日: 2020/11/14 メディア: 単行本 現代アメリカの黒人問題を鋭く訴えかけるタナハシ・コーツ。下巻ではまず、アメリカの投獄率が世界的に見ても高い…

本田由紀他『「ニート」って言うな!』(光文社新書)

「ニート」って言うな! (光文社新書) 作者:本田 由紀,内藤 朝雄,後藤 和智 発売日: 2013/12/20 メディア: Kindle版 ニートバッシングに対して反論している本。そもそもニートのとらえ方が間違っているし、ニートを社会のスケープゴートにしているし、ニート…

タナハシ・コーツ『僕の大統領は黒人だった』上(慶應義塾大学出版会)

僕の大統領は黒人だった 上 :バラク・オバマとアメリカの8年 作者:タナハシ・コーツ,Ta-Nehisi Coates 発売日: 2020/11/14 メディア: 単行本 BLM(Black Lives Matter)運動を理解するために必読の本。アメリカで黒人論客として活躍するタナハシ・コーツ…

塩沢・島田『ひとり暮しの戦後史』(岩波新書)

ひとり暮しの戦後史―戦中世代の婦人たち (岩波新書 青版 924) 作者:塩沢 美代子,島田 とみ子 発売日: 1975/01/01 メディア: 新書 第二次世界大戦は多くの男性を戦地に送り出した。そのことによって、いいなずけや恋人を失ったり、夫を失ったり、また結婚する…

澁谷智子『ヤングケアラー』(中公新書)

ヤングケアラー―介護を担う子ども・若者の現実 (中公新書) 作者:澁谷 智子 発売日: 2018/05/18 メディア: 新書 ヤングケアラーとは、家族の介護を行う18歳未満の子供のことである。ヤングケアラーは教育を受ける立場で知識形成や人格形成の時期にあるが、…

蟹江憲史『SDGs』(中公新書)

SDGs(持続可能な開発目標) (中公新書) 作者:蟹江 憲史 発売日: 2020/08/20 メディア: 新書 環境・経済・社会を統合するものとして、持続可能な社会を作り出すために2015年の国連総会で加盟国全部が同意した世界の未来像であるSDGs(sustainable deve…

大沢真理『企業中心社会を超えて』(岩波現代文庫)

企業中心社会を超えて――現代日本を〈ジェンダー〉で読む (岩波現代文庫) 作者:大沢 真理 発売日: 2020/08/19 メディア: 文庫 「会社主義」というと、過剰な競争、異端的社員の排除、非正規社員への差別、長時間労働、視野狭窄といったことが言われてきた。だ…

城繁幸『若者はなぜ3年で辞めるのか?』(光文社新書)

若者はなぜ3年で辞めるのか?~年功序列が奪う日本の未来~ (光文社新書) 作者:城 繁幸 発売日: 2013/12/20 メディア: Kindle版 いい大学に行っていい会社に就職すれば、年功序列のレールに乗って自動的にやりがいのある仕事にたどり着ける。その年功序列シ…

與那覇潤『知性は死なない』(文藝春秋)

知性は死なない 平成の鬱をこえて (文春e-book) 作者:與那覇 潤 発売日: 2018/04/06 メディア: Kindle版 地方大学の准教授として勤務していたが、うつ病で退職を余儀なくされた元歴史学者の当事者研究、文明批評。うつ病にり患した当事者として、世間で持た…

ハ・ワン『あやうく一生懸命生きるところだった』(ダイヤモンド社)

あやうく一生懸命生きるところだった 作者:ハ・ワン 発売日: 2020/01/16 メディア: 単行本(ソフトカバー) 自由と健康は誰しもが大事にしたいと思っている基本的な価値だと思う。人は自由に行動したいし、健康に生きていきたい。できるだけ縛られたくないし…