地方大学の准教授として勤務していたが、うつ病で退職を余儀なくされた元歴史学者の当事者研究、文明批評。うつ病にり患した当事者として、世間で持たれているうつ病への誤解を改めるような意見を提示し、またうつ病にかかることで気づいた言語と身体の二つの軸を基本に据えて平成の社会を批評していく。
これはうつ病でIQが下がったという著者のリハビリの書でもあり、うつ病で言葉を発することができなくなったという著者の言葉の回復の書でもある。うつ病で著者は言語を失い、身体の重要性に気付く。そこから、言語/身体という分析軸で社会批評をしていく契機が生まれる。知性主義や帝国、ポピュリズムやメリトクラシー、友達の定義やイスラムの問題など、著者の筆は縦横無尽に世界を駆け巡る。
本書を読んで感じたのは、奇妙な書物であるということだ。体系書でもなければエッセイでもない、単なる時評でもない、それらが混然と混ざり合っていて、不思議な広がりを見せている。本書はあえて完成させないことで広い射程を獲得したのかもしれない。