社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

マウンティングポリス『人生が整うマウンティング大全』(技術評論社)

人生が整うマウンティング大全 作者:マウンティングポリス 技術評論社 Amazon 爆笑必至であるが、なかなか鋭い洞察を示してくれるマウンティングに関する本。マウンティングの実例を豊富に示したうえで、相手にマウントをとらせることがビジネスシーンでも役…

村松聡『つなわたりの倫理学』(角川新書)

つなわたりの倫理学 相対主義と普遍主義を超えて (角川新書) 作者:村松 聡 KADOKAWA Amazon 徳倫理学の入門書。功利主義や義務論では適切な解決ができない問題がたくさんある。徳倫理学は、すっぱりした回答を出してはくれないが、様々な事情を勘案しながら…

マイクロアグレッション

最近、少数者や特定の属性を持つ人に対する些細な、ときには意図せざる差別的言動をマイクロアグレッションと呼ぶようになった。例えば女性の業績に対して「女性なのにすごい」と言ったりすることの背後には、「女性は大したことがない」という偏見が隠れて…

山本圭『嫉妬論』(光文社新書)

嫉妬論~民主社会に渦巻く情念を解剖する~ (光文社新書) 作者:山本 圭 光文社 Amazon 嫉妬について小気味よくまとめて論じた本。嫉妬は民主社会において、人々が平等であることによっていっそう生じやすくなっている。嫉妬は公益的に作用すると世直しを導く…

奥村隆『他者といる技法』(ちくま学芸文庫)

他者といる技法 ――コミュニケーションの社会学 (ちくま学芸文庫 オ-37-1) 作者:奥村 隆 筑摩書房 Amazon 論文集。人間はただのリラックスした家庭生活を送るときでさえ、表情を整えたり相手に反応したり、一定の他者とともに居る技法を用いている。他者とい…

橋本努『経済倫理=あなたは、なに主義?』(講談社選書メチエ)

経済倫理=あなたは、なに主義? (講談社選書メチエ) 作者:橋本努 講談社 Amazon 世の人々の価値観を大分類している本。従来の保守・リベラルなどとは異なった価値観の軸を提唱している。①行政の倫理:合意形成力、事務的有能さ、自発性、正直、節倹、規律、…

人事の公正性の原則

我々社員は人事部の言うことはきちんと聞く。なぜなら人事は公正に運営されているという信頼があるからだ。社員の人事は常に公正に運営されなければならない。これが人事の公正性の原則だ。仮に人事が公正に運営されておらず、情実や政治によって不当にゆが…

橋本努『ロスト近代』(弘文堂)

ロスト近代 資本主義の新たな駆動因 作者:橋本 努 弘文堂 Amazon ポスト近代の後にくるロスト近代における現状と打開策を論じている本。ポスト近代においては、近代の超克が企図され、父権としての超越的規範が批判され規範そのものが失われていった。その過…

小川公代『ケアの倫理とエンパワメント』(講談社)

ケアの倫理とエンパワメント 作者:小川公代 講談社 Amazon ケアの精神を文学作品から読み解く試み。人間には連続的進行の「クロノス的時間」とは別の、経験に基づいた想像世界が育まれる「カイロス的時間」が流れている。ケア労働の背後にある内面世界にはカ…

橋本努『消費ミニマリズムの倫理と脱資本主義の精神』(筑摩選書)

消費ミニマリズムの倫理と脱資本主義の精神 (筑摩選書) 作者:橋本 努 筑摩書房 Amazon 最近消費におけるミニマリズムが唱えられているが、それが脱資本主義とどう関係するか論じた本。今はポスト近代のさらに先のロスト近代であり、必要最低限のモノで生きて…

栗原康『超人ナイチンゲール』(医学書院)

超人ナイチンゲール (シリーズ ケアをひらく) 作者:栗原 康 医学書院 Amazon ナイチンゲールについての現代的な視点から見た評伝。ナイチンゲールは、看護という営みを通して、リスクを計算して合理的に生きるという近代的個人を超えている。それは彼女の神…

東畑開人『ふつうの相談』(金剛出版)

ふつうの相談 作者:東畑開人 金剛出版 Amazon 医師が専門的な知識を用いてカウンセリングなどを行うのはむしろ例外的であって、世の中にはインフォーマルな相談でありふれていてそれが治療効果を持っているとする本。「ふつうの相談」とは、民間セクターで交…

戸谷洋志『親ガチャの哲学』(新潮新書)

親ガチャの哲学(新潮新書) 作者:戸谷洋志 新潮社 Amazon 親ガチャについての哲学的な議論。自分の人生が生まれたときの状況によって決定されており、あとからその運命を変えられないとする「親ガチャ的厭世観」がしばしばみられる。これは、自分の人生を自…

東浩紀『訂正する力』(朝日新書)

訂正する力 (朝日新書) 作者:東 浩紀 朝日新聞出版 Amazon 一人一人が訂正する力をもって地道に行動していけば社会は変わるという主張をしている本。訂正する力とは、過去との一貫性を主張しながら、実際には過去の解釈を変え、現実に合わせて変化する力のこ…

井奥陽子『近代美学入門』(ちくま新書)

近代美学入門 (ちくま新書) 作者:井奥陽子 筑摩書房 Amazon 現代の美意識や美の概念の成立の経緯をたどる目から鱗が落ちる本。「アート」という言葉は古代から中世まで「技術」を意味していて、それが「芸術」を意味するようになるのは近代のことである。近…

2023年に読んだ本

2023年の読書メーター読んだ本の数:130読んだページ数:33957ナイス数:749人が人を罰するということ ――自由と責任の哲学入門 (ちくま新書 1768)の感想議論の展開がダイナミックで目からウロコ。素晴らしい。読了日:12月26日 著者:山口 尚別れの色彩 …

山口尚『人が人を罰するということ』(ちくま新書)

人が人を罰するということ ――自由と責任の哲学入門 (ちくま新書) 作者:山口尚 筑摩書房 Amazon 人が人を罰することに果たして意味はあるのか。罰することは無意味だとする理論への反論を提示している本。人を罰することは無意味であるとする議論がある。それ…

山根・牟田『なぜ日本からGAFAは生まれないのか』(光文社新書)

なぜ日本からGAFAは生まれないのか (光文社新書) 作者:山根 節,牟田 陽子 光文社 Amazon GAFAが発展した要因を分析し、それが日本にはないことを説明している本。アップルでは、スティーブ・ジョブズのクレイジーさがその成功を導いた。グーグルでは先見の明…

本多真隆『「家庭」の誕生』(ちくま新書)

「家庭」の誕生 ――理想と現実の歴史を追う (ちくま新書) 作者:本多真隆 筑摩書房 Amazon 家庭という場所をめぐる議論の変遷を跡付けながらそこで問題となっている人間の居場所について考察している本。「家庭」というと、今では保守派が守るべきものとして維…

岩尾俊兵『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか』(光文社新書)

日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか~増補改訂版『日本“式”経営の逆襲』~ (光文社新書) 作者:岩尾 俊兵 光文社 Amazon 日本企業は経営技術において優れているが、その理論化において劣っているとする本。日本が産業界において世界的に見て停滞気味な現状に…

児玉真美『安楽死が合法の国で起こっていること』(ちくま新書)

安楽死が合法の国で起こっていること (ちくま新書) 作者:児玉真美 筑摩書房 Amazon 安楽死は確かに瀕死の人間の苦しみを取り除く意味で人間の「死ぬ権利」に資するが、それに歯止めが利かなくなると逆に人間の命を軽視することにつながるという問題提起をし…

論理は一つの正義にすぎない

論理的であることが過大視される場面が割と多いように思います。論理的であれば絶対正しい、論理は覆せない、そう思っている人もいるかもしれません。ですが、正義というものは論理だけではなくほかにもいろいろあります。効率性や平等性、感情や直観など。…

稲田豊史『映画を早送りで観る人たち』(光文社新書)

映画を早送りで観る人たち~ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形~ (光文社新書) 作者:稲田 豊史 光文社 Amazon 映画を早送りで観る人たちが増えている。そのようなコンテンツ消費の深層に迫る本。映画には間にも意味があり、作成された時間のま…

矢野・佐々木『絵本のなかの動物はなぜ一列に歩いているのか』(勁草書房)

絵本のなかの動物はなぜ一列に歩いているのか: 空間の絵本学 作者:矢野 智司,佐々木 美砂 勁草書房 Amazon 絵本に対する画期的な洞察を示す良書。空間構成のプロセスから考えたとき、絵本は、絵や文によって関係が集積して積み重なり、そのはてにその関係の…

波戸岡景太『スーザン・ソンタグ』(集英社新書)

スーザン・ソンタグ 「脆さ」にあらがう思想 (集英社新書) 作者:波戸岡景太 集英社 Amazon アメリカを代表する知識人として、その言説や行動が絶えず話題の的となっていたスーザン・ソンタグの入門書。ソンタグは、「反解釈」の立場をとり、既存の解釈にあら…

メグ・レタ・ジョーンズ『Ctrl+Z 忘れられる権利』(勁草書房)

Ctrl+Z 忘れられる権利 作者:メグ・レタ・ジョーンズ,石井夏生利,加藤尚徳,高崎晴夫,藤井秀之,村上陽亮 勁草書房 Amazon EUデータ保護規則にも盛り込まれている「忘れられる権利および消去権」。デジタル贖罪とも呼ばれるこの新しい権利について、各国の学説…

源河亨『愛とラブソングの哲学』(光文社新書)

愛とラブソングの哲学 (光文社新書 1277) 作者:源河 亨 光文社 Amazon 愛とラブソングについて哲学的な分析を加えていく本。愛は感情の枠に収まるものではなく、対象となる人に関する思考・欲求・行動・感情を生み出す潜在的な基盤である。そして愛は代替不…

郭四志『脱炭素産業革命』(ちくま新書)

脱炭素産業革命 (ちくま新書) 作者:郭四志 筑摩書房 Amazon 気候変動などの抑止に向けたカーボンニュートラルの推進のための最近の技術革新について詳細に解説している。CO2削減のため、洋上風力発電の拡大、燃料アンモニア産業の拡充、水素を利用した技術開…

渡名喜庸哲『現代フランス哲学』(ちくま新書)

現代フランス哲学 (ちくま新書) 作者:渡名喜庸哲 筑摩書房 Amazon 哲学史として哲学の教科書に載っている哲学者以降の現代フランス哲学について概説している本。フーコー、ドゥルーズ、デリダというと誰でも知っていると思うが、そういったビッグネーム以降…

濱口桂一郎『家政婦の歴史』(文春新書)

家政婦の歴史 (文春新書) 作者:濱口 桂一郎 文藝春秋 Amazon 家政婦についての労働法上の位置づけの歴史的変遷について書いた本。家政婦の前の時代には女中がいた。女中とは家の一員として家父長の支配下にあり、起きてから寝るまで主人の命令に従って無限定…