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戸谷洋志『親ガチャの哲学』(新潮新書)

 親ガチャについての哲学的な議論。自分の人生が生まれたときの状況によって決定されており、あとからその運命を変えられないとする「親ガチャ的厭世観」がしばしばみられる。これは、自分の人生を自分のものとして引き受けることを妨げ、自己肯定感を引き下げる。だが、私たちは、たとえ自分の意志でこの世界に生まれてきたのではないにしろ、自分が自分であることは誰のせいにもできないのだから、この人生は自分に帰属させるしかなく、責任を負う主体である。責任を負いつつも、他者との連帯を築くことで、親ガチャ的厭世観から免れることができる。

 最近よく耳にするようになった「親ガチャ」という言葉。確かに、人は生まれによってかなりの部分を規定される。努力によっては越えられない壁が存在する。そうでありながら、本書はハイデガーに依拠しながら、自分の人生に責任を持っていく方向性を模索する。もちろん、他者からの援助があってそれが可能になるのではあるが。運命論や決定論にいかに抗うかは難しい問題である。