社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

中原淳『転職学』(KADOKAWA)

 

  転職を科学的に分析した画期的な本。

 転職のメカニズムは、「D×E>R」であり、DはDissatisfaction(不満)、EはEmployability(転職力)、RはResistance(抵抗感)である。つまり、不満が大きく転職力が大きく、それらが抵抗感を上回るときに転職が起こるのである。

 不満としてはハラスメントや待遇など多岐にわたり、性別によっても重視する不満が違う。だが、転職後の満足感は、不満をより肯定的な動機(キャリアアップなど)へと転換したほうが大きい。転職力には知識・スキル・資格といったステータスとしての転職力と、自己をどれだけ深く正しく認識できるかといったアクションとしての転職力があり、それらを総合して考慮する。抵抗感とは変化することへのためらいであり、配偶者の抵抗であることもある。

 転職した際には、学習棄却(アンラーニング)が必要であり、それまでに学んだことをある程度捨て、新しい環境における新しいルールなどを柔軟に吸収することが転職後の満足度につながる。そして、そのような柔軟性は日頃から学びを行っている人ほど高い。

 さて、我々の世代になると定年70歳と言われており、そうするとやはり一度や二度の転職は避けられないのかもしれない。また、転職でなくとも、大きな組織内での内部異動はときに「転職」と言っていいほどの変化をもたらす。そのような大きな変化をもたらす内部異動に適応するためにもこの転職学の知見は役に立つ。一番大事なのは日頃から学習し、柔軟性を身につけておくことである。柔軟に捨てるものは捨てていかなければならない。

原田曜平『Z世代』(光文社新書)

 

  Z世代とはおおむね1990年代中ごろ以降に生まれた世代。

 Z世代が注目されるのは、①平成の高齢化によって生まれた高齢者信奉が崩れ、企業やメディアの視線が若者に向けられたこと、②デジタル生活時代のもっとも川上にいる存在として注目されたこと、③新型コロナ時代にデジタル化が加速し、Z世代の社会的プレゼンスが上がったこと、④人材不足により企業はZ世代の確保に躍起になっていること、などによる。

 消費離れと同調圧力によって特徴づけられるゆとり世代に比べて、Z世代は「チル&ミー」により特徴づけられる。少子化による人手不足により、Z世代はまったりと過ごす「チル」という価値観を強く持ち、またスマホ第一世代として発信型SNSを使うことで自己承認欲求と発信欲求を強く持つようになった。

 本書は、「最近の若者」であるZ世代を徹底的に分析した好著である。現代の若者の特徴を的確にとらえ、Z世代の心をつかむやり方についても書いてある。変化が激しく価値観が流動的・多様的である現代において、その先端を行く若者の価値観を知っておくのは重要である。なぜなら時代の価値観を最も体現しているのが若者だからだ。若者について知ることにより、職場や家庭でのジェネレーションギャップが無駄に生じるのを回避し、若者とうまく付き合うことができる。上からの価値観の押しつけは絶対にやってはいけないことである。若者に寄り添い、ともに時代を作っていく気概が必要であろう。

ラリー遠田『お笑い世代論』(光文社新書)

 

  お笑いの戦後史を簡潔に述べている。

・お笑い第一世代:ザ・ドリフターズ萩本欽一

 テレビという新しいメディアに合わせた新規性のある「テレビ芸」を作り出す。

・お笑い第二世代:ビートたけし明石家さんま

 プロの芸人があえて素人のようにふるまうことで斬新でテレビ的な笑いを生み出す。

・お笑い第三世代:とんねるずダウンタウン

 子弟制度から解放された最初の世代。テレビを自分たちの遊び場にする。

・お笑い第四・第五世代:ナインティナインロンドンブーツ1号2号

 コント番組が減りバラエティ番組が増えた時代にいち早く適応した。

・お笑い第六世代:キングコングオリエンタルラジオ

 テレビの影響力が下がってきた時代にテレビで挫折し、テレビとは別の場所で活動。

・お笑い第七世代:霜降り明星、EXIT

 地上波テレビは数ある選択肢の一つにすぎず、芸人の生き方も価値観も多様に。

 本書は、テレビとともに歩んできた戦後お笑い界の通史を提示した価値ある書である。著者については、お笑い評論家としてデビューした当時から注目していたが、このような体系的な書物をまとめたことについて、心から祝意を示したい。本書はお笑いの通史の一つの里程標となることが間違いない。バランスの取れた記述と鋭い批評意識に貫かれていてとても良かった。

宮崎雅人『地域衰退』(岩波新書)

 

地域衰退 (岩波新書 新赤版 1864)

地域衰退 (岩波新書 新赤版 1864)

  • 作者:宮崎 雅人
  • 発売日: 2021/01/22
  • メディア: 新書
 

  地域衰退の現状と理由、対策についてコンパクトにまとまっている本。

 60~70年代にかけて、農林業など基盤産業が衰退した地域の中で産業の交代が起きなかった地域では、その後人口減少と高齢化が起きた。他方で、大都市や県庁所在地などでは事業所サービス業が新たな基盤産業として発展し、他地域の人々の消費をひきつけ発展している。こうした都市以外では、サービス経済化といっても医療・福祉が中心で他都市へと波及していかない。地域外へ生産物を移出し、地域外から所得を得る基盤産業が衰退した地域が衰退する。地域外から所得を得られる地域が衰退しないのである。

 大都市への人口集中は経済的な合理性はあるが、その弊害も早くから指摘される一方、抜本的な解決策はいつまでも先送りされている。その中で地域は疲弊していき、人口減少や高齢化で悩まされている。地域への分権・分散を抜本的に行う必要性を感じるが、最近では地方暮らしの若者や若者の地方定着志向に注目が集まっている。このデジタル社会においてもはや大都市へ移住する必要はなく、地方へと分散し地域特性を生かしていくことが求められていると感じる。

エリカ・フランツ『権威主義』(白水社)

 

権威主義:独裁政治の歴史と変貌

権威主義:独裁政治の歴史と変貌

 

 民主主義の対極にある独裁制などの権威主義について書かれた体系書。権威主義とは競争的な民主主義が成立していない独裁制などのことである。

 権威主義の主要なアクターは、リーダー、エリート、大衆である。権威主義は貧しい国に多く、豊かな国は民主主義国であることが多い。権威主義のリーダーはなるべく自らの地位に長くとどまろうとする。そのための大衆抑圧やエリートの抱き込みなど、リーダーは様々な手を尽くす。また、権威主義はリーダーによって担われるのではなく、エリートの集団からなる権威主義体制によって担われることもある。権威主義はクーデターにより権力を掌握することが多く、民衆蜂起などは数が少ない。

 最近、民主主義について書かれた本が多く出版されている中、権威主義について体系的に整理された本書の存在意義は大きい。権威主義体制はその不透明性から外部からその内部を把握することが困難ではあるが、それなりの研究の蓄積がある。世界には権威主義の国の数が少なくない。そういった国はこれからますます存在感を増すだろう。かなりの良書だと思う。