社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

2023-01-01から1年間の記事一覧

山口尚『人が人を罰するということ』(ちくま新書)

人が人を罰するということ ――自由と責任の哲学入門 (ちくま新書) 作者:山口尚 筑摩書房 Amazon 人が人を罰することに果たして意味はあるのか。罰することは無意味だとする理論への反論を提示している本。人を罰することは無意味であるとする議論がある。それ…

山根・牟田『なぜ日本からGAFAは生まれないのか』(光文社新書)

なぜ日本からGAFAは生まれないのか (光文社新書) 作者:山根 節,牟田 陽子 光文社 Amazon GAFAが発展した要因を分析し、それが日本にはないことを説明している本。アップルでは、スティーブ・ジョブズのクレイジーさがその成功を導いた。グーグルでは先見の明…

本多真隆『「家庭」の誕生』(ちくま新書)

「家庭」の誕生 ――理想と現実の歴史を追う (ちくま新書) 作者:本多真隆 筑摩書房 Amazon 家庭という場所をめぐる議論の変遷を跡付けながらそこで問題となっている人間の居場所について考察している本。「家庭」というと、今では保守派が守るべきものとして維…

岩尾俊兵『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか』(光文社新書)

日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか~増補改訂版『日本“式”経営の逆襲』~ (光文社新書) 作者:岩尾 俊兵 光文社 Amazon 日本企業は経営技術において優れているが、その理論化において劣っているとする本。日本が産業界において世界的に見て停滞気味な現状に…

児玉真美『安楽死が合法の国で起こっていること』(ちくま新書)

安楽死が合法の国で起こっていること (ちくま新書) 作者:児玉真美 筑摩書房 Amazon 安楽死は確かに瀕死の人間の苦しみを取り除く意味で人間の「死ぬ権利」に資するが、それに歯止めが利かなくなると逆に人間の命を軽視することにつながるという問題提起をし…

論理は一つの正義にすぎない

論理的であることが過大視される場面が割と多いように思います。論理的であれば絶対正しい、論理は覆せない、そう思っている人もいるかもしれません。ですが、正義というものは論理だけではなくほかにもいろいろあります。効率性や平等性、感情や直観など。…

稲田豊史『映画を早送りで観る人たち』(光文社新書)

映画を早送りで観る人たち~ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形~ (光文社新書) 作者:稲田 豊史 光文社 Amazon 映画を早送りで観る人たちが増えている。そのようなコンテンツ消費の深層に迫る本。映画には間にも意味があり、作成された時間のま…

矢野・佐々木『絵本のなかの動物はなぜ一列に歩いているのか』(勁草書房)

絵本のなかの動物はなぜ一列に歩いているのか: 空間の絵本学 作者:矢野 智司,佐々木 美砂 勁草書房 Amazon 絵本に対する画期的な洞察を示す良書。空間構成のプロセスから考えたとき、絵本は、絵や文によって関係が集積して積み重なり、そのはてにその関係の…

波戸岡景太『スーザン・ソンタグ』(集英社新書)

スーザン・ソンタグ 「脆さ」にあらがう思想 (集英社新書) 作者:波戸岡景太 集英社 Amazon アメリカを代表する知識人として、その言説や行動が絶えず話題の的となっていたスーザン・ソンタグの入門書。ソンタグは、「反解釈」の立場をとり、既存の解釈にあら…

メグ・レタ・ジョーンズ『Ctrl+Z 忘れられる権利』(勁草書房)

Ctrl+Z 忘れられる権利 作者:メグ・レタ・ジョーンズ,石井夏生利,加藤尚徳,高崎晴夫,藤井秀之,村上陽亮 勁草書房 Amazon EUデータ保護規則にも盛り込まれている「忘れられる権利および消去権」。デジタル贖罪とも呼ばれるこの新しい権利について、各国の学説…

源河亨『愛とラブソングの哲学』(光文社新書)

愛とラブソングの哲学 (光文社新書 1277) 作者:源河 亨 光文社 Amazon 愛とラブソングについて哲学的な分析を加えていく本。愛は感情の枠に収まるものではなく、対象となる人に関する思考・欲求・行動・感情を生み出す潜在的な基盤である。そして愛は代替不…

郭四志『脱炭素産業革命』(ちくま新書)

脱炭素産業革命 (ちくま新書) 作者:郭四志 筑摩書房 Amazon 気候変動などの抑止に向けたカーボンニュートラルの推進のための最近の技術革新について詳細に解説している。CO2削減のため、洋上風力発電の拡大、燃料アンモニア産業の拡充、水素を利用した技術開…

渡名喜庸哲『現代フランス哲学』(ちくま新書)

現代フランス哲学 (ちくま新書) 作者:渡名喜庸哲 筑摩書房 Amazon 哲学史として哲学の教科書に載っている哲学者以降の現代フランス哲学について概説している本。フーコー、ドゥルーズ、デリダというと誰でも知っていると思うが、そういったビッグネーム以降…

濱口桂一郎『家政婦の歴史』(文春新書)

家政婦の歴史 (文春新書) 作者:濱口 桂一郎 文藝春秋 Amazon 家政婦についての労働法上の位置づけの歴史的変遷について書いた本。家政婦の前の時代には女中がいた。女中とは家の一員として家父長の支配下にあり、起きてから寝るまで主人の命令に従って無限定…

改善している

子どもが生まれてから、0歳、1歳のときはとにかく大変だった。核家族で育児をするのは本当にたいへんなので、各種サービスや給付金の制度を整えていただきたいと強く願っている。だが、2歳になるとたいへんさもだいぶ改善されたように思う。なぜかという…

子育て世代の苦心の休み方

小さな子供を育てていると、休日でもあまり休めないし、年休をとるのも子どものイベントだったり、妻が体調が悪くなったため自分が代わりに子守をするためだったり、溜まった買い物の処理だったりする。とにかく心底休んだ気がしない!!おまけに生計のため…

郭四志『産業革命史』(ちくま新書)

産業革命史 ――イノベーションに見る国際秩序の変遷 (ちくま新書) 作者:郭 四志 筑摩書房 Amazon 産業革命の歴史について詳述した本。第一次産業革命は、イギリスで起きた動力・エネルギー革命を中心として、蒸気機関の発明をもとに工場制機械工業が始まった…

L.ハンケ『アリストテレスとアメリカ・インディアン』(岩波新書)

アリストテレスとアメリカ・インディアン (岩波新書 青版 D 63) 作者:ルイス ハンケ 岩波書店 Amazon スペインのアメリカ大陸先住民への過酷な扱いを糾弾したラス・カサスの思想と生涯を描いた本。スペインの先住民支配には思想的根拠があった。それは、アリ…

笹尾俊明『循環経済入門』(岩波新書)

循環経済入門 廃棄物から考える新しい経済 (岩波新書 新赤版 1987) 作者:笹尾 俊明 岩波書店 Amazon 循環型社会から循環経済への移行を唱える書。日本の循環型社会とEUの循環経済(サーキュラーエコノミー)では、ともに天然資源の効率的な利用や廃棄物・環…

シドニー・W・ミンツ『甘さと権力』(ちくま学芸文庫)

甘さと権力 ――砂糖が語る近代史 (ちくま学芸文庫) 作者:シドニー・W・ミンツ 筑摩書房 Amazon 砂糖の生産と消費をめぐる世界システムに着目した本。17・18世紀の世界システムの作用によって、砂糖は生産し消費されたが、そこには奴隷制度やプランテーシ…

不祥事について

不祥事が起きると、不祥事を起こした当人が制裁を受けるだけでなく、その当人の所属する組織などのイメージが悪化する。不祥事が起きた場合、それが組織に所属する者の行いであるならば、組織は謝罪や懲戒などの対応に追われ、通常業務に大きな支障をきたす…

姫野桂『ルポ 高学歴発達障害』(ちくま新書)

ルポ 高学歴発達障害 (ちくま新書) 作者:姫野桂 筑摩書房 Amazon 高学歴だけれど仕事ができない人たちのルポルタージュ。発達障害を抱えながらも、学業では優秀な成績を修め、良い大学に入るが、いざ就職してみると事務仕事ができない、そういう人たちが多数…

松本勝男『日本型開発協力』(ちくま新書)

日本型開発協力 ――途上国支援はなぜ必要なのか (ちくま新書) 作者:松本勝男 筑摩書房 Amazon 日本による途上国への開発協力について詳細に論じた本。日本の開発協力は、自由主義や民主化などの価値の普及を目指す欧米や自国の経済的利益を求める新興国の開発…

仕事と家庭

仕事と家庭を両立するのはいつの時代でも働く人々にとって難問である。特に、私は子どもが生まれてからそれを痛感している。子どもは現在2歳4カ月。今までとても手がかかったし、これからもまだまだ手がかかるだろう。問題はこの子供の面倒をだれが見るか…

吉見俊哉『大学は何処へ』(岩波新書)

大学は何処へ 未来への設計 (岩波新書) 作者:吉見 俊哉 岩波書店 Amazon 現代日本の大学の失敗を、日本の大学の歴史にさかのぼって検証した重厚な本。戦争末期から占領期にかけて大学を再定義する際、理工系の圧倒的優位、初中教育から高等教育までの単線性…

村木厚子『公務員という仕事』(ちくまプリマー新書)

公務員という仕事 (ちくまプリマー新書) 作者:村木 厚子 筑摩書房 Amazon 厚生労働事務次官を務めた著者による公務員入門。公務員は人の役に立つ仕事をするが、利益を生まず、収支が合わない事業でも社会に必要であれば行うところが民間企業とは違う。また、…

渡辺一史『なぜ人と人は支え合うのか』(ちくまプリマー新書)

なぜ人と人は支え合うのか (ちくまプリマー新書) 作者:渡辺 一史 筑摩書房 Amazon 障害者についての認識を改める本。障害者というと、健常者の対義語のように用いられ、哀れで無力な存在のように思われがちである。だが、様々なケアを必要とする意味で、我々…

超越の技法

組織で働いているといろんなことが気になるものだ。基本的に淡々と仕事をこなしていればいいのではあるが、例えば人間関係であったり、人事であったり、組織で働く人ならではの気になることがいろいろある。場合によってはある人に悪口を言われ続けてストレ…

ナンシー・フレイザー『資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか』(ちくま新書)

資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか (ちくま新書) 作者:ナンシー・フレイザー,江口泰子 筑摩書房 Amazon 資本主義の本質に根差す社会制度としての欠陥を暴き出し、資本主義の棄却と新たな社会主義の構想を示す本。資本主義は、被差別人種から土地・資源…

石田光規『「人それぞれ」がさみしい』(ちくまプリマー新書)

「人それぞれ」がさみしい ――「やさしく・冷たい」人間関係を考える (ちくまプリマー新書) 作者:石田 光規 筑摩書房 Amazon 個人を尊重する「人それぞれ」の考え方の功罪について書いている本。現代において個性が尊重され多様性が受け入れられている結果、…