社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

L.ハンケ『アリストテレスとアメリカ・インディアン』(岩波新書)

 スペインのアメリカ大陸先住民への過酷な扱いを糾弾したラス・カサスの思想と生涯を描いた本。スペインの先住民支配には思想的根拠があった。それは、アリストテレスの「先天的奴隷人」の思想である。これは、生まれながらにして粗野であり劣等である人間は生まれながらにして奴隷である、という思想である。スペインの侵略者たちはインディオをこの先天的奴隷人とみなし、インディオに戦争を仕掛け制圧し虐殺などをした。それに対し、インディオも立派な文明を持っているとしてインディオの擁護をしたのがラス・カサスである。

 ラス・カサスの名は世界史をかじったことのある人なら誰でも知っていることであろう。だが、彼が具体的にどのような論争においてどのような主張をしたか詳細に知っている人は少ないだろう。本書は、ラス・カサスの思想や論戦を、詳細かつ具体的に記していて、当時のスペインの事情が分かり面白い。