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本多真隆『「家庭」の誕生』(ちくま新書)

 家庭という場所をめぐる議論の変遷を跡付けながらそこで問題となっている人間の居場所について考察している本。「家庭」というと、今では保守派が守るべきものとして維持しようとしているもののように思われているが、従来はむしろ「家」に対抗する近代的な家族の在り方として新しく唱えられたものだった。そこでは恋愛結婚によって結ばれた男女を核に、個人を尊重しながら共同生活が営まれるものとされた。現代においては、個人をベースに共同性を考え、個人は依存先を必要とすることを前提に、依存の在り方の一つとして家庭を考えるべきである。家庭は虐待の舞台となったりもするので必ずしも望ましい唯一の選択肢ではない。

 家庭とそれをめぐる議論について詳細に歴史的に跡付けていて、かなり緻密な議論が展開されている。何の疑いもなく使っていた家庭という言葉だが、その概念については紆余曲折の歴史的変遷があった。私は比較的穏やかな家庭で育ったので家庭という問題意識を持たなかったが、今新たに子どもが生まれてみると、改めて家庭とは何かという問題に直面している。非常に参考になる良書だった。