社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

タナハシ・コーツ『僕の大統領は黒人だった』上(慶應義塾大学出版会)

 

  BLM(Black Lives Matter)運動を理解するために必読の本。アメリカで黒人論客として活躍するタナハシ・コーツがアメリカにおける現代の黒人をめぐる議論を彼なりに整理している。黒人の犯罪や性的放縦、不道徳行為を諫め、二親家庭と安定した生活ときちんとした就業を勧める黒人保守主義について論じたもの、オバマが黒人でありながら人種問題を巧妙に回避することで大統領になれたことについて論じたもの、黒人による南北戦争のとらえ直しや、黒人による白人の不当な取扱いに対する損害賠償について論じたもの、などなど、現代アメリカにおける黒人をめぐる言説について学ぶところが大きい。

 タナハシ・コーツは一貫して白人至上主義と闘っている。黒人が過去に不当に財産を取り上げられたりリンチされたりレイプされたりしたことを決して忘れまいとしている。そして、現在においても黒人はハードな人生を強いられていることを強調している。彼にとってオバマは非常に複雑な感情を抱かざるを得ない人物だったと言える。一方で同じ黒人が大統領の地位に就いたということの喜びがあるが、かといってオバマが黒人のために人種差別を撤廃する政治からは巧妙に身を引いていたことに対する不満がある。現代アメリカにおいてもなお、黒人の問題は複雑である。