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タナハシ・コーツ『僕の大統領は黒人だった』下(慶應義塾大学出版会)

 

  現代アメリカの黒人問題を鋭く訴えかけるタナハシ・コーツ。下巻ではまず、アメリカの投獄率が世界的に見ても高いことを問題視する。そして、投獄されるのは大部分が黒人なのである。投獄は黒人の家庭を破壊し、黒人男性の就職を困難にしている。また、実際にオバマと何度も会っている著者がオバマの生い立ちや政策、その異種混合的であることについても論じている。さらに、トランプ政権がいかに白人中心主義的であり黒人を排斥しているかについての論考もある。

 黒人の不品行は歴史的に形成されてきた面が多いと思われる。また、黒人の貧困が一層黒人を犯罪へと駆り立てるし、警察も黒人ばかりを検挙する。それが一層黒人の貧困や不品行を生むという悪循環が生じているのが現代アメリカだ。この悪循環を断ち切るために、黒人への啓蒙活動など様々な政策が必要なはずであり、ただ投獄すれば済む問題ではない。また、著者のオバマに対する非常に複雑な感情が垣間見えて面白い。手放しで喜べないが、それでも喜ばしい黒人大統領の誕生。これについてはさらなる論考を待ちたい。