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後藤正治『清冽』(中公文庫)

 茨木のり子の生涯を描いた初の評伝。茨木は家柄もよく容姿にも恵まれながら、柔らかく、でありながら毅然とした態度で戦争などの日本社会の動きと対峙した。「倚りかからず」「自分の感受性くらい」に端的に表れているように、自律してさわやかな精神的態度を持つ近代的な女性であった。本書は、作品や日記などを豊富に引用しながら、そのような茨木の清冽な精神を描いている。

 茨木のり子は特にドラマチックな人生を歩んだわけではない。良家の子女ではあったが、その人生に大きな波はなかった。だが、その自律した精神と豊かな感受性でもって、戦後詩を代表する名作をいくつも生み出した。また、『詩のこころを読む』というエッセイでも広く知られている。彼女の人生は詩人の人生の一例として興味深く読める。