社会科学読書ブログ

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エーリッヒ・フロム『生きるということ』(紀伊國屋書店)

 持つこと(to have)とあること(to be)を対比させながら、あるべき人間の姿を提示する本。あるべき人間の姿としては、①十全に「ある」ために、あらゆる「持つ」形態を進んで放棄しようとする意志、②安心感、アイデンティティ、結びつき、関心、愛という態度をとり、世界を支配し、所有し、また自分の所有物の奴隷にならない、③貯蓄し、搾取するのではなく、与え、分かち合うこと、④自己及び同胞の十全の成長を、生の至高の目的とすること。あるべき社会の姿としては、①中央集権化を免れる、②自由市場経済を捨てる、③限りない成長ではなく選択的成長を、④物質的利益ではなく精神的満足を、⑤快楽ではなく福利と喜びを、⑥仕事における創意より生活における創意を。

 現代の市場社会、消費社会、競争社会においては、持つこと、支配すること、搾取することが欲望されている。だがフロムはそれは人間の本来の在り方ではないとする。それは疎外されたありかたであり、人間は本来他人と共生し、与えあい分かち合いながら生きている存在なのである。仕事で成功することよりも、自らのアイデンティティを確立し安心感や愛を抱いて存在することの方が重要だ。確かに、人生の正午である40歳くらいにおいて、これまで自分が何をしてきたのかわからないという不安感に悩まされる人が多いと聞く。それはやはり持つことに執着しあることを十分大切にしなかったからであろう。とても良い本を読んだ。