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岸見一郎『エーリッヒ・フロム』(講談社現代新書)

 

 エーリッヒ・フロムの入門書。フロムは「生きる技術」を探求した。人間は自然の一部であり死にゆく存在であると同時にそれを超越するという「実存的二分性」と、個人の生活や社会生活における矛盾である「社会的二分性」に直面している。権威主義に陥らず、自ら自律し良心に従っていくことでこれらの二分性を克服できる。そして、「愛の技術」も重要であり、責任と配慮をもって他者を愛することにより社会の分断を防げる。

 フロムの思想は、我々がいかに生きるかという倫理学の問題にじかに応えている。フロムは心理学者であったが、そこを起点としてそれを超える思想を展開したと言える。マルクスフロイトを十分に咀嚼した結果であろう。今を生きる我々にも響くものはかなりあり、特に同調圧力の強い日本において、権威に屈さず孤独に生きよという思想は重要である。フロムの原典も読みたくなった。