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梅田孝太『ショーペンハウアー』(講談社現代新書)

 

 ショーペンハウアーのコンパクトな入門書。世界には二つの側面がある。表象としての世界と意志としての世界だ。人間存在の重要な要素として「生きようとする意志」があり、それによって表象は様々な影響を受ける。あらゆる表象は意志と連動しており、あらゆる存在のルーツである根源的な力が意志なのである。世界は表象としての世界であると同時に意志としての世界でもある。だが意志は生きる苦しみを生み出す。苦しみから脱するにはどうしたらいいか。芸術は意志そのものを描き出し、それを鑑賞する者の意志を鎮静化させる。また、他人の苦しみに共感する「共苦」もまた意志を否定してくれる。

 人生は悲惨で苦痛に満ちているというシビアな現実認識から始まって、カント哲学を主に参照しながら独自の哲学を築き上げたショーペンハウアー。苦しみも含めて人生だと思ってしまえば楽だが、そう思えない人々には多少気持ちを静めてくれる思想ではないだろうか。確かに現実は悲惨だが、それを乗り越えることに楽しみがある。それは意志を肯定する思想であるが、それで案外人生はうまくいく。ショーペンハウアーの思想にすがらねばならないほど絶望した時、もう一度振り返りたい思想だ。