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佐々木実『宇沢弘文』(講談社現代新書)

 日本で一番ノーベル経済賞に近いと言われた宇沢弘文の思想と生涯。宇沢は数理経済学者として米国で名前をはせるも、ベトナム戦争に反対して日本に帰ってくる。日本に帰ってきてからは水俣病の悲惨さなどに心を痛め、環境への関心を高めていく。そんな中で提唱したのが「社会的共通資本」の思想であり、広い意味での「環境」を経済学の対象として扱う理論である。「社会的共通資本」は、①大気、森林、河川、水、土壌などの自然環境、②道路、交通機関上下水道、電力・ガスなどの社会的インフラ、③教育、医療、司法などの制度からなっている。

 宇沢はれっきとした近代的個人だった。一般会社に就職したときは会社の不正を糾弾してくびになったり、ベトナム戦争に反対してアメリカでの地位を放棄したり、自らの思想をきちんと持ってそれに従って行動する人間だった。そして類まれなる知性を持ち、よりよい社会の形成を願っていた。私も『自動車の社会的費用』をかつて読んで感動した記憶がある。『社会的共通資本』は未読なので、さっそく読んでみたいと思った。「社会関係資本」と混同しがちですね。