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斎藤幸平『ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』

 

 現代社会のフィールドワーク。『人新世の資本論』がベストセラーになった理論家の斎藤幸平が、現実に社会問題の現場に行き、現場を体験するというシリーズのエッセイである。

 「理論を実践する」ということはよく言われる。人間は理論が先行しがちだから、実際にそれを現場で実践するという流れである。だが、本書は「実践から理論を生み出す契機を作る」ということをやっているように思う。それは、単に実践から理論を帰納するということではなくて、実践で得られた生の体験というのは無限の細部に満ちているため、そこから様々なアイディアを導出しうるということである。斎藤は本書では、この体験からこんな理論が得られたみたいなことは書いていない。だが、彼が将来自らの理論をさらにアップデートしていく中で、こういう複雑な問題系が絡まっているところである現場での体験というものは、理論を創発する上でとても貴重なものとなるであろう。