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河合秀和『レーニン』(中公新書)

 本書はレーニンの生涯にまつわるロシア史である。それは、革命以前のロシアのマルクス主義の歴史であると同時に、レーニン個人の政治家としての生き方の歴史でもある。レーニンは決してマルクス主義をそのまま実行したのではなかった。マルクス主義によれば、プロレタリア革命は資本主義が十分成熟したときに起きるとされていたが、ロシア革命は資本主義が芽生えたばかりの時に行われた。それだけではなく、彼は自らが属するボルシェビキとも理論的に異なる立場をとっていた。

 レーニンの生きざまを見ると、実際的で実践的な能力が、いかに社会を変革していく上で必要かが分かる。理論に忠実であることによって現実とかい離し、そのことによって理論の実現が妨げられることよりも、ときには理論から逸脱しても、理論のおおもとにある理念のようなものの実現を目指すことが、肝要である。政治家としては、何よりも支持者を取り付けなければならないわけであるし、社会の多数派や社会の要求を無視しては何の改革もなしえない。

 理論的に一貫していなくても、政治家として生き残り、社会の変革をなし遂げる状況察知能力に優れていれば、立派な革命家となりうるのである。革命家というとどうしても硬直的な理念を押し通す人物というイメージがあるが、現実の革命家は優れて柔軟的で、社会の要求を鋭く察知し、理念にこだわらない柔軟性を持っていることを、レーニンの生涯は教えてくれる。