日本語の「愛国」の語源となったパトリオティズムについて歴史的に解読している本。パトリオティズムには、自国への愛という狭義の愛国の側面もあるが、同じ理念や制度を共有する共同体への愛というコスモポリタンな側面もある。古代ローマのキケロにおいて、すでにこの二種類のパトリオティズムが分離されており、前者には自然的祖国、後者には市民的祖国が対応する。フランス革命後の保守反動後、バークらによって近しいものへの愛を基本とする自国への愛が強調され、現在の日本の保守的な「愛国」に至る。なお、現在においても、自由で平等な個人が公正な共同生活を営むために市民が民主的な政治文化を絶えず反省するルールとプロセスを愛国的忠誠心の対象とする「憲法パトリオティズム」、美しく豊かな自然環境を守るという「環境パトリオティズム」があり、これらはいずれも国境を越えたコスモポリタンな性格を持つ。
愛国というと先入観が強くて私などはかなり偏見を持っていたのだが、そういう先入観を覆す好著である。愛国というものを硬直的なものとしてとらえず、コスモポリタンな次元に開いていく可能性を示唆する本書は、これからのグローバルな社会へ参入する私たちにとって重要な書物ではないだろうか。偏狭な「愛国」からより広範な「パトリオティズム」へと、我々は変化を迫られているのかもしれない。