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エマニュエル・トッド『第三次世界大戦はもう始まっている』(文春新書)

 

 ウクライナ戦争の分析を通じて見えてくる現代の世界地図。そもそもロシアは父権性の強い社会であり、権威主義体制になじむが、ウクライナは父権性が弱く、権威主義にはなじまない異質な国家であった。ウクライナNATOの事実上の加盟国であり、ウクライナ武装化英米は多大な援助をしている。アメリカとしては世界で戦争を独占していたために、今回ロシアが戦争を起こしたことで地位が脅かされたと思っている。アメリカは非平等で自由な国家であり、「リベラル寡頭制」とでもいうべき体制である。それに対してロシアは順調な民主主義的成長をしており、「権威的民主主義」とでもいうべき体制である。今回の戦争は「リベラル寡頭制陣営」VS「権威的民主主義陣営」とでもいうべきである。

 家族人類学者であり現代最高の知性とも呼ばれるエマニュエル・トッドによるウクライナ戦争の分析である。日本ではロシアが悪者であるかのように毎日報道されているが、戦争の原因はむしろ英米にあったとするものである。これはそのような世界を巻き込んだパワーゲームであり、「世界大戦」の名に値する。ウクライナ戦争については新聞やテレビの報道くらいしか知らなかったが、こうして一冊の本を読んでみると多角的に理解することができて有益であった。