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吉見俊哉『大学は何処へ』(岩波新書)

 現代日本の大学の失敗を、日本の大学の歴史にさかのぼって検証した重厚な本。戦争末期から占領期にかけて大学を再定義する際、理工系の圧倒的優位、初中教育から高等教育までの単線性が導入され、高等教育の複線性やリベラルアーツが育たなかった。また、現代においてネット化とグローバル化少子化にさらされる中で、大綱化・大学院重点化・国立大学法人化という改革も実を結ばなかった。教師と学生の協同組合としてのカレッジ、研究と教育が一致するファカルティ、アカデミック・キャピタリズムの中での知的エージェントとしてのユニバーシティの複合体として大学はあるべきだが、それが十分育たなかった。

 相変わらず吉見の本は独特のペシミズムに貫かれているが、それにしても現代の大学がなぜうまくいっていないかを、占領期にまでさかのぼり詳細に跡付けていく力量には脱帽する。現代の大学の問題をここまで掘り下げている本は少ないのではないだろうか。これだけの重厚でハイレベルな本を新書で読めるなんてありがたい。大学についてはつくづく考えさせられる本である。