社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

山本義隆『近代日本一五〇年』(岩波新書)

 

  開国以来の日本の科学技術政策の歴史を詳説した本。

 日本は開国以来、西欧の科学技術の発展に追いつくために、政官学一体となって科学技術の振興を推し進めてきた。本書はその歴史をつぶさに追っている。その過程では劣悪な労働環境で搾取された人々がいたし、自然は破壊され公害が起こったりもした。

 そして、福島第一原子力発電所の事故により、科学技術幻想は終焉し、人口減少とともに経済成長の現実的条件が消滅した。大国主ナショナリズムはもう過去のものとなっている。人間の幸せを求めるためには、成長の経済から再配分の経済に移行しなければならない。今、軍需経済がそれなりに発展しているが、軍需産業からの撤退・原子力使用からの脱却を宣言すべきではないか。

 本書は、近代日本の科学技術の歴史を様々な資料に基づいて詳細に記述した専門書顔負けの重厚な本である。そこでは、いかに日本が科学技術の発展による経済成長に猛進してきたかがわかる。だがそこには公害などの多大な犠牲が伴っていて、日本人の幸福は実現されなかった。これからの科学技術政策をどう舵取りするか、その判断をする前提として、きわめて重要な学習ではないだろうか。