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鳥原学『日本写真史(上)』(中公新書)

 

  日本写真史についての教科書的な本。1848年から1974年まで。

 英仏で写真が誕生すると、日本にも技術が輸入される。富国強兵政策の記録写真として、北海道開発から足尾銅山まで写真による記録がなされる。台湾出兵西南戦争に従軍する写真家もいた。一方で趣味で写真を撮るアマチュア写真家が増え、他方で雑誌を中心とする「写壇」が成立した。名取洋之助を中心にフォト・ジャーナリズムが成立し、第二次世界大戦に多くのカメラマンが従軍した。

 敗戦後、広島と長崎の写真記録が残されたりする一方で、ヌード写真が流行したりした。「岩波写真文庫」の画期的達成や土門拳の社会的リアリズムなどが場を席巻した。写真にもヌーヴェル・ヴァーグは押し寄せて、主体から主観への転換がなされた。

 高度経済成長期、写真家たちは週刊誌の仕事を得るようになる。また、商業写真の需要が一気に増えてくる。東京オリンピックベトナム戦争は格好の題材となった。ミュージシャンたちへの接近から大学紛争まで表現の幅を広げ、私的な題材を用いる「私写真」が登場する。

 本書は日本写真史の通史であり幾分退屈な感じは否めないが、十分内容は充実しており読みごたえがある。写真には興味があるけれど、歴史とか理論とか全く分からない、何から読んだらいいかわからない、という人には十分お薦めできる本である。とりあえずここに出てくる写真集などを少しずつ鑑賞しながら写真についての理解を深めていけばいい。