社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

オズワルド・シュミッツ『人新世の科学』(岩波新書)

 

 新しい時代の生態学について紹介している本。生態学とは、生物間の捕食・被捕食の関係やそこにおける物質の代謝や分解、物質の流れなどについて研究する科学である。旧来、生態学は人間のシステムと自然のシステムを分離し、自然のシステムのみについて研究していたが、人間が生態へと大きな影響を行使している人新世において、社会と自然との相互関係を無視できなくなった。社会の動きも視野に入れた新しい生態学が発展している。そこにおいては、人間は他の人間に対して、自然の完全性・回復力・持続可能性・美しさを守る義務があり、そのために自然経済を支える生物と物理的環境の相互依存関係を守る「環境スチュワードシップ倫理」が重要である。

 人間が自然環境に大規模に変更を加えることが可能になった以上、生態学もそれを取り込んだうえで構築されなければならないだろう。本書は近年の生態学の動きを紹介していてとても興味深かった。そこでは新しい倫理が重視され、地球環境問題に対する別の角度からのアプローチがある。生態学からの地球環境問題へのアプローチについては初めて読んだので面白かった。