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本村凌二『剣闘士』(中公文庫)

 

 古代ローマにあった剣闘士という職業について概観できる本。剣闘士競技はそもそも父祖の弔いのための供犠という位置づけだったが、だんだん選挙に利用されたりして、最終的には世俗的な娯楽になってしまった。剣闘士という職業は賤しいものとされ、奴隷などがその職に就いた。剣闘士の仕事は命がけであり、生き残るのはそれほど簡単ではなかった。剣闘士競技のための闘技場はローマ帝国の版図の各地に残っており、また剣闘士競技の宣伝のための看板や剣闘士競技を描いた絵画などが残っている。ローマ帝国の衰退とともに、剣闘士競技も失われていった。

 本書は、導入部分に剣闘士を主人公とした小説が挿入されている。これがよくできたものでとても面白い。剣闘士という職業を具体的にイメージさせるのに成功している。それにしても、現代では人権の観点からとても許容されないような剣闘士という職業であるが、そういうものが存在してしまうというところに人間の業の深さを感じる。生死をかけて見世物をやらなければいけないなんて今ではとんでもない。だがこれについては考えを深める余地があるだろう。