社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

村松聡『つなわたりの倫理学』(角川新書)

 徳倫理学の入門書。功利主義や義務論では適切な解決ができない問題がたくさんある。徳倫理学は、すっぱりした回答を出してはくれないが、様々な事情を勘案しながら臨機応変に問題に対応できる。徳倫理学において重要とされるのは「潜在力」であるが、人間が生を充実する際に必要とする能力と機会の総体のことであり、ヌスバウムによると次の10個が挙げられる。生命、身体の健康、身体の不可侵性、感覚・想像力・思考力、感情、実践理性、連帯、ほかの種との共存、遊び、自分の環境の管理。この潜在力が機能するように諸般の事情を総合衡量するのである。

 最近徳倫理学関係の書籍が増えてきたと思う。確かに、功利主義や義務論では解決できない複雑な問題は、単純な倫理公式で考えるよりもより具体的に臨機応変に考えていった方がより適切な回答が出せるのかもしれない。アリストテレスが唱えたフロネーシスの伝統であろう。とは言っても、徳倫理学にも原理原則があり、そこについてきちんと書いているのが本書だ。なかなか勉強になった。