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ナオミ・ザック『災害の倫理』(勁草書房)

 

災害の倫理: 災害時の自助・共助・公助を考える

災害の倫理: 災害時の自助・共助・公助を考える

 

  災害についての応用倫理学を展開している本。災害については備えもまた倫理的に重要であり、災害計画における最善の原理は「最善の備えをして助けられる人すべてを公平に救う」という原理である。また、災害時には英雄的な勇気よりも誠実さや勤勉さが要求される。災害は政府の機能を一時的に停止させるため「第二の自然状態」を作り出す。政府は災害による第二の自然状態において市民が生き残るために備える義務がある。なぜなら、災害時においても無実の人の生きる権利や個人の尊厳は停止されないからである。

 本書は災害という状態においてどのような倫理的な問題が生じどのような倫理的解決が望ましいかについて述べている。その際、帰結主義や義務論、徳倫理学や社会契約論などの倫理学の道具を駆使しながら結論を導いている。これが応用倫理学なのだな、と納得するようなよくできた作品だった。このような倫理学理論の営みが政府の意思決定などにフィードバックされていくのだろう。