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マイケル・ローゼン『尊厳』(岩波新書)

 

  尊厳とは何かについてカントにさかのぼって考察している重要な本。

 国家が個人の自由を制限するとき、他者の尊厳を敬うことで威厳ある行動をする義務を国家は課している。尊厳が権利の根拠となるのは、尊厳がどのように生きるかを個人が決定する自律的な権利だからである。人々を常に手段としてではなく目的として扱わなければならないというカントの格率により、尊厳は不可侵のものとなる。カントは人格を備えた自律的存在にのみ尊厳を認めたようだが、著者はさらに遺体や胎児にも敬意をもって対峙することを要求している。

 世界の中の多くの国において尊厳は権利の根拠とされ、法制化されているが、そもそも尊厳とは何であり、何故に権利の根拠となっているかについての理論的根拠については多く語られてこなかった。本書はそのような原理的問題について、カントを援用しながら答えようとしている。記述は割とすっきりしない部分が多いが、重要な問題を扱った重厚な作品であり、尊厳について考える人にとって非常に有効だと思われる。