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岩崎育夫『アジア政治を見る眼』(中公新書)

 

  アジア諸国がほぼ一様に開発独裁から市民社会へという道筋をたどったことへの理論的説明がなされている。

 独立直後の東アジア諸国は政治、経済、社会、国際関係、安全保障のすべてにわたる課題に直面した。中央集権化を軸にした権威主義体制(開発主義国家)はそれらの課題を解決するために極めて都合がよく、国家統合、社会統合、経済発展を可能にした。

 開発主義国家の形成による経済成長の恩恵を受けたのが中間層だった。80年代になると都市中間層が参加するNGOが活発化する。中間層とNGO、それに付随して学生、労働者、宗教団体、野党などが最活性化し、抑圧されていた市民社会の領域が拡大し、開発主義批判や民主化運動が本格化した。

 本書は、東アジア諸国の戦後の歴史を振り返り、それらの多くが開発主義独裁から市民社会へ、という流れで動いていることを確認し、そのダイナミクスを説明している。日本もまた明治維新の時代には同じような経歴をたどっており、歴史の運動の一つのモデルとしてそういった流れが観測できる。東アジア各国の歴史を丁寧になぞりながら、その具体的事実をもとに理論を構築する手法は鮮やかで、極めて読みごたえがあった。