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吉田徹『アフター・リベラル』(講談社現代新書)

 

  現代世界においてはリベラル・デモクラシーが後退している。リベラル・デモクラシーは70年代をピークとする分厚い中間層に支えられていたが、90年代のグローバル化による産業構造と雇用市場の変化により将来を悲観する中間層が増えることで権威主義的なニューライトやポピュリズムが台頭してきた。

 戦後政治は「保守対左派」という対立軸から「権威主義対リベラル」という対立軸へと移行していった。左派が文化的・価値的にリベラルへ転じることで、保守もまた文化的・価値的リベラルに接近する「リベラル・コンセンサス」ができあがった。リベラル・コンセンサスによる政治は、これに取り残された経済的かつ社会文化的に反リベラルの人々を生み出していった。

 国と国とを歴史認識問題が切り裂いている。共通の歴史は認識と未来の共有の土台となるものだが、逆に人々を分断する要因になっている。現代ではアイデンティティを喪失した人々が空白のアイデンティティを埋めるために宗教を利用するという「ポスト世俗化」の傾向が出てきており、ヘイトクライムやテロを生んでいる。個人主義は他人との協働の契機を見出さないとかえって弱い個人、非民主的個人を生み出してしまう。

 本書は、リベラリズムが後退している現代社会において、それがどのような理由でどのような過程を経てどんな問題をはらんでいるかについて分厚く論じている。新書レベルを超えるような重厚な政治学の書物であり、非常に読みごたえがある。これはぜひ政治的立場の別を超えて読んでもらいたい本である。