社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

谷口・宍戸『デジタル・デモクラシーがやってくる!』(中央公論新社)

 

  本書は、情報技術が政治にどのような影響を与えるかについて最新の知見を与えてくれる。本書では①政治に関する情報流通の変化、②民主政治における新しい合意形成の仕組み、③政治制度のアップデート、について議論がなされている。

 SNSの発達により、個人は自ら好む情報により多く接するようになり(フィルターバブル)、またフェイクニュースの危険にさらされている。一方で政党ではメディアの情報を分析することで政策形成に生かしている。また、情報技術を用いた熟議民主主義が期待されており、情報を得たうえで討議を踏まえて世論を形成することが期待されている。情報技術を用いて、例えば議会を電子化し、公開性を向上し人々の参加を促進する試みが他国ではなされており、議会のモバイルアプリで陳情や請願をできる国もある。また、選挙もインターネット投票などの可能性が期待されている。

 情報技術は確実に政治の在り方を変えるだろう。日本はまだ技術革新には至っていないが、諸外国では公開性や効率性を高めるための工夫が様々になされている。一方で、情報技術が発達することが必ずしも政治を良い方向に導くとは限らない。フィルターバブルによっていっそう分断が加速している現実はそれを裏付けている。だが、最近注目されている熟議民主主義を成功させるプラットフォームとして情報技術は期待できる。