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協力について

 個人の能力と経験には限界がある。例えば私は料理が苦手であるし、そもそも男だから子供が産めない。それに対して、例えば配偶者は料理が得意で、女だから子供が産める。私と配偶者が家庭を作ることにより、料理はスムーズに作られ、子供が産めるようになる。一人ではできなかったことが家庭という共同体を作り配偶者と協力することでできるようになる。また、私の人生経験などたかが一人分の人生に応じたものに過ぎない。それに対して、配偶者と様々な対話をすることにより、配偶者の経験やものの見方が私の中に入り込んでくる。そのことによって、私は二人分といかないまでも1.5人分くらいの人生を生きることができる。我々は協力することでできることを増やし、自らの内部の多様性を増すことができるのである。
 同じようなことは職場でも言える。例えば私が新しい部署に異動したとする。私はその部署の仕事について何もわからない状態である。だがそこで先輩が私のわからない点について教えてくれることで私の知識とスキルは高速に進化する。私が一人で調べごとをしながらやっていたら途方もなく無駄な時間と労力が必要だった仕事が、先輩という教育係のおかげで少ない時間と労力で済ませることができるようになる。また、職場の先輩は私とは違ったものの見方を持っているかもしれない。仕事についても私よりもより深く経験しているから、先輩の失敗談や成功談を聞くことで私は自分の経験を拡張することができる。職場でもまた協力することで、人は自らの能力と経験の限界を超えていくのである。
 最近は家庭を作らない人も多いし、仕事に就かない人も多い。家庭を作ったり仕事についても孤独に過ごし他者と協力することを拒む人も中にはいる。それもまたその人の人生だが、協力することは社会から求められてもいる。あなたと協力すれば私はもっと仕事ができるし、もっと視野を広げることができる。そう思っている人は世の中にたくさんいる。そういう社会からの要請を拒んで孤立するよりは、進んで社会に参画し、自らの能力や経験を広げると同時に、他者の能力や経験を広げる手助けをするのがよいと思う。