社会科学読書ブログ

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玉手慎太郎『公衆衛生の倫理学』(筑摩選書)

 公衆衛生の倫理学について詳しく書かれている本。例えば肥満を防ごうなどといったように、政府の側からパターナリスティックに個人の健康について介入していく施策がよくある。その際、有効な介入と個人の自律をバランスさせる必要が出てくる。なぜなら、健康は望ましいものではあるが、一方で個人の自由は尊重しなければいけないからだ。その点、「ナッジ」という方法が有効である。これは例えば、レストランのメニューの一番目につきやすいところに健康的なメニューを掲示するなどして、個人の自由をあまり害さない程度に健康へと誘導するやり方だ。

 本書は公衆衛生の倫理学の論点について、多岐にわたって詳細に論じていて読みごたえがあった。もちろんコロナの問題も取り扱っている。専門家はさらに研究を深めていくべきだろうが、素人的にはこの一冊でだいぶ間に合う感じだ。ナッジという考え方はとても勉強になる。公衆衛生についてかなり理解が深まる本だと思う。