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ナンシー・フレイザー『資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか』(ちくま新書)

 資本主義の本質に根差す社会制度としての欠陥を暴き出し、資本主義の棄却と新たな社会主義の構想を示す本。資本主義は、被差別人種から土地・資源・安価な労働力を収奪し、主に女性から社会的再生産に費やされる無償のケア労働を収奪し、自然から無償・安価な投入物を収奪し、公権力から法的秩序やインフラなどを収奪する。これが現代の危機の本質的な部分である。これらを克服するため、新たな社会主義が構想されるが、社会的再生産、構造的人種差別、帝国主義、脱民主化地球温暖化などの問題に新たな光を投げかけることが期待される。

 最近、インテリの界隈では脱資本主義の流れが強いのを感じる。とはいっても、失敗したバージョンの社会主義に戻ろうとするわけではもちろんない。ソ連を繰り返そうとしているわけではないのである。資本主義が内在している構造から生じる社会的危機を克服するため、新世代の社会主義が模索されている。本書は資本主義の悪を徹底的に理論的に暴き出している。新たな社会主義の構想はこれからどんどん精緻化されていくだろう。