社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

石田光規『「人それぞれ」がさみしい』(ちくまプリマー新書)

 個人を尊重する「人それぞれ」の考え方の功罪について書いている本。現代において個性が尊重され多様性が受け入れられている結果、人それぞれの行動や考え方が容認される一方、他人への干渉が他人へ迷惑をかけるものとして忌避され、逆に「人それぞれ」ではない在り方を許さないようなコンセンサスを生み出した。我々は本音で話し合うことをあまりしなくなり、好き勝手な表現ができなくなり、どんどん委縮していく。そして、「迷惑センサー」「特権センサー」が作動し、他人の尊厳を侵す人やみんな平等であるという原則を侵す人へと攻撃が向かうようになる。

 SDGsの採択なども含めて、最近の人間関係は優しいけれど冷たい。多様性を認めること、人それぞれを認めることは、人間を尊重する意味ではよいことだけれど、一方で様々な弊害もある。ただみんながそういっているから安易に多様性を尊重しようとか言っていないで、それには負の側面もあるのだよということをきちんと認識しようというのが本書の主張である。もっともだと思った。