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三木那由他『会話を哲学する』(光文社新書)

 言語哲学の観点から会話を分析している。会話という行為は、コミュニケーションとマニピュレーションを含む営みである。コミュニケーションとは発言を通じて話し手と聞き手の間で約束事を構築していく営みで、マニピュレーションとは発言を通じて話し手が聞き手の心理や行動を操ろうとする営みである。人々はコミュニケーションとマニピュレーションを様々に使いながら会話している。もうわかりきっていることをあえてコミュニケートしたり、間違っているとわかっていることをあえてコミュニケートしたり、コミュニケーションにならないからこそあえて発話したりする。

 具体的なフィクション作品における会話を取り上げながら、その会話において何が行われているかを、様々な事例に即して多彩に分析している。人々は会話において相手と様々な交渉や調整を行っていることが明かされていく。全体的に明晰かつダイナミックに議論が展開していき、著者の頭脳明晰さがうかがえる本だった。