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中原淳他『残業学』(光文社新書)

 

  働き方は人それぞれ、残業についての考え方も人それぞれである。だが、残業というものをデータとエビデンスと論理に基づいて科学的に、つまり経営学の手法を用いて客観的に分析するとどうなるか。

 中原淳他『残業学』(光文社新書)は、残業というものを科学している。それによると、これからの超高齢化社会では少しでも多くの人材を必要とし、高齢者も共働き夫婦も外国人も、育児・介護・病気などで制限のある人も働ける働き方を目指さなければならず、「働く人」=「長時間残業が可能な人」という働き方はもはや維持できない。また、残業には健康リスクがあるし、自ら学ぶ時間を奪うリスクもある。企業にとっても、残業の多い会社は労働者が忌避するし、人材育成がうまくいかず、イノベーションが起こらず、コンプライアンス上も問題がある。残業を減らすことは中長期的に、「働く人」を増やし暮らしやすい世の中をつくっていくことで、個人・企業・社会の希望へとつながっていく。

 では、そのような残業を減らすにはどうしたらよいか。中原は、業務の透明性、コミュニケーションの透明性、時間の透明性を挙げる。業務の透明性とは、誰が何をどのようになるかを共有化することである。仕事の属人化を防ぎ、チームで仕事の分担を調整すること。コミュニケーションの透明性とは、わからないことをすぐに教え合う、上の者に対しても言いたいことが言える、上司・部下関係なく仲が良いこと。時間の透明性とは、いつまでが働く時間なのか、何がいつまでに行われるべきか明確化すること。

 長時間労働は働き手がいくらでもいた高度経済成長期には有効だったが、働き手が不足している現代においてはもはや時代錯誤になっている。たいていの人が労働に参画できるように、労働時間を削減し、その分ワークシェアをする。そのことによってこれからの超高齢化社会を日本は乗り切っていかなければならない。