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山口尚『人が人を罰するということ』(ちくま新書)

 人が人を罰することに果たして意味はあるのか。罰することは無意味だとする理論への反論を提示している本。人を罰することは無意味であるとする議論がある。それは、人間が物理的に決定されているため責任を負う主体ではないからとか、責任は社会的に構成された虚構に過ぎないからといった理論に基づく。だが、私たちは「人間として」生きており、自己決定し、責任を負い、互いの行為に表れた意図や意志に反応しあい、何かしらの感情や態度を向け合う、そのようなフレームワークの中にいる。そのフレームワークの中に「他人を罰する」ことも含まれる。それゆえ他人を罰することには意味がないということこそ無意味である。

 本書は刑罰の多様な機能に着目することから始まり、自由と責任の哲学についてストローソンに主に依拠しながら著者の主張を展開している。確かに、人を罰することに意味があるのかは難しい。人を罰することによる弊害も大きいと思われるからあだ。処罰された人は家庭を破壊され社会復帰が困難になったりする。そこまでするよりも処罰とは異なった仕方で社会悪を除去できないか考えるべきとも思われる。だが本書はそういった問題点に関して少し違った次元の回答を返してくる。非常に興味深い。