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深町晋也『家族と刑法』(有斐閣)

 

 家庭で問題となる刑法の問題についておもにドイツ法を参照しながら論述している。もともと、「法は家庭に入らず」というように、刑法において家族や親族は処罰を限定する方向での意義を有していたが、今は状況が大きく変わっている。DV防止法や児童虐待防止法といった特別法の制定が示すように、一定の場合には積極的に法が家庭の中に入っていく必要があるという認識が広まっている。家族は一方でその構成員を社会の荒波から守るが、他方ではその構成員に対する侵害リスクを高める。

 本書では、家庭で起こる刑法的問題について論じている。DVや児童虐待児童ポルノ受動喫煙、親族相盗例、子どもをめぐる争い、死者の扱い、保護責任者遺棄罪、しつけ、妊娠中絶、予防接種など、話題は多岐にわたる。それぞれについて民法研究者のコメントもついており、理解が深まるようになっている。家族は犯罪の温床であるともいえるが、もちろんそれだけではない。家族に対する理解、刑法に対する理解がともに深まる本だ。