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児玉真美『安楽死が合法の国で起こっていること』(ちくま新書)

 安楽死は確かに瀕死の人間の苦しみを取り除く意味で人間の「死ぬ権利」に資するが、それに歯止めが利かなくなると逆に人間の命を軽視することにつながるという問題提起をしている本。安楽死尊厳死は異なり、尊厳死とは終末期の患者にそれをやらなければ死に至るであろう措置を差し控えることで患者を死なせることを言う。それに対して安楽死は医師が薬物を注射するなどして患者を死なせることである。安楽死には積極的安楽死と医師幇助自殺があり、医師幇助自殺はあくまで医師の手を借りた患者本人の意思による自殺である。安楽死の規制はどんどん緩くなっており、「すべり坂」の様相を呈している。治療を無益として医師の方が主導権を握って安楽死を行う方向に向かっている。

 確かに終末期の患者の苦しみを取り除く意味での安楽死は本人の死ぬ権利に資するだろう。だが、諸外国では、精神的な苦しみを逃れさせるために健康な人間に安楽死を施したり、とにかく死にたければ安楽死を認めてしまうケースもみられる。また、医師の側が治療を無益として、医師の方に主導権が握られている安楽死もみられる。また、働き盛りの人間はとにかく治療に力を入れるが社会的に無益と思われている弱者について積極的に安楽死を認めるという命の選別につながりかねない。本書は安楽死の問題を非常に深く掘り下げており、その倫理的問題について深く考察している。すごく勉強になる。