社会科学読書ブログ

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東畑開人『ふつうの相談』(金剛出版)

ふつうの相談

 医師が専門的な知識を用いてカウンセリングなどを行うのはむしろ例外的であって、世の中にはインフォーマルな相談でありふれていてそれが治療効果を持っているとする本。「ふつうの相談」とは、民間セクターで交わされている素人同士の治療である。このふつうの相談の説明モデルとなるのが「世間知」であり、世間知とは心と社会双方についての素人知を有機的に結合させたものである。世間知に基づくふつうの相談が、目の前の人の苦悩や不調を医学的疾患ではなく、「生きる」ことの個人的な困難として理解する。そのうえで、心がどう変わるとよくて、環境の何が変わるとよいかの指針を出す。

 臨床心理学などの理論に基づくハードコアな相談が純粋な相談のように思われがちだが、社会で実際に行われているのはふつうの相談であることが圧倒的に多く、そうであるならばふつうの相談について理解を深めておこうと理論化している本である。なかなか柔軟な発想によって書かれていて、この分野で書かれた理論書はおそらく少ないのであろう。とても勉強になった。