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橋本努『自由原理』(岩波書店)

 福祉国家の根本原理について考察した本。福祉国家の理念については様々なものが挙げられる。①福祉国家以前に存在した愛徳の理念で共同体の外側を包摂するもの、②ロックによる個人的所有権に基づく最小国家、③最小国家より安上がりな人々に規律訓練を課す国家、④生権力を行使し人々を健康にする国家、⑤各人が自律した人間になることを相互に助け合い共通善を担うという連帯の理念、⑥民主的討議を通じて福祉政策を決める福祉国家、⑦政府介入を最小限にしつつ経済と福祉の両方を同時に発展させるシステム、⑧人間の潜在能力の全面開花という意味での自由の実現。福祉国家思想の発展は、同時に自由の発展史でもあった。

 福祉国家というものを、その原理・哲学から論じた重要な著作である。福祉国家についてはその基本となる哲学について十分整理されてこなかったように思われる。現在我々も福祉国家で生きているわけであるが、それがどのような思想に基づき、どのような方向性を持っているか、理解することは非常に重要である。本書はそのような機会を与えてくれよう。