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井奥陽子『近代美学入門』(ちくま新書)

 現代の美意識や美の概念の成立の経緯をたどる目から鱗が落ちる本。「アート」という言葉は古代から中世まで「技術」を意味していて、それが「芸術」を意味するようになるのは近代のことである。近代には同時に「芸術家」も生まれた。「美」の概念についても、ものがもつ均整の取れた様という外面的なものから、それを感じる人の心にあるというような転換が起こった。美が主観的になったことから、不規則で無秩序とされるものについても独特の魅力がうたわれ、「崇高」や「ピクチャレスク」という概念が生まれた。「美、崇高、ピクチャレスク」が近代の美意識である。

 本書は芸術とは何か、美とは何かという基本的な問題について、歴史を紐解きながら理路整然と平易な文体で衝撃的なことを語ってくる。私は美学の専門家でも何でもないので、本書で書かれていることから得るものはとても多かった。近代において芸術や美についての考え方が転換したということはとても興味深い。大変勉強になるので、いろんな方にお薦めしたい。