ケアの精神を文学作品から読み解く試み。人間には連続的進行の「クロノス的時間」とは別の、経験に基づいた想像世界が育まれる「カイロス的時間」が流れている。ケア労働の背後にある内面世界にはカイロス的時間が流れている。また、文学の傑作は両性具有的な性格を備え、自立した自己を前提とした「正義の倫理」が見落としてきたスピリチュアルな「多孔的な自己」のイメージを備えている。それもまたケアの精神につながっていく。また、留保して耐えるネガティブケイパビリティもまた文学作品のもととなり、ケアの精神につながる。
本書は、文学作品に表れているケアの精神を読み解いているが、それは文学作品にケア労働が描かれているということよりは、ケアの精神をもっと深く掘り下げて考察し、そこに様々な鍵となる概念を見出し、その概念が文学作品に反映されていることを読み解いているのである。ケアについて考える際に必須となってくる概念がいかに文学作品に読み取れるか。このような文学作品の読みときは初めて読んだ。なかなかスリリングだった。