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斎藤環『「自傷的自己愛」の精神分析』(角川新書)

 自分のことを言葉で罵倒する癖のある人が相当数いる。そういう人たちがどのような精神構造でそのような行為を行っているかについて分析している。そういう人たちは「自傷的自己愛」を抱いている。彼らはプライドが高く自信がなく、自分が周囲からどう見られているかずっと考えており、自己愛ゆえに自分のことを否定していることが推察される。この現象は、現代社会で人々が承認に依存しており、キャラとしての自分が承認されることを望んでいることから生じている。キャラとして弱く承認を得られないコミュ力の低い弱者が自傷的自己愛を抱くのである。

 確かに、やたらと自分を卑下する人というのがいるが、そういう人たちはかえって自意識や自己愛が強い印象を与えるものである。というのも、そういう人たちは自分に対する関心がやけに高い印象を与えるからだ。そういう人たちを、「自傷的自己愛」という言葉でくくって、現代の承認依存社会の構造から読み解いているのが本書である。この概念はとても適切で、新しい。これをもとにさらに議論が活発化していくとよい。